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あなたと漢字を偏愛する  作者: M


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3/4

【丘】

【丘】

訓読み:おか

音読み:キュウ

部首:一

画数:5

意味

1 小高い地形

2 土を盛った墓



 今日、二人で来たのは、丘が見えるお茶屋さん。

 店の名は「丘の麓の茶屋」。ド直球のネーミングは嫌いじゃない。

 芳ばしいお茶の香りと、甘さ控えめのお団子が、心を豊かにしてくれる。


「『丘』って、丘っぽい形をしてるよね」


 私は、メニューに書かれた店名と、新緑の芝に覆われた丘とを見比べる。


「は……?」


 彼はキョトンとする。


「この字よ。『丘』って、まさに丘!って形じゃん」

「当たり前じゃないか。象形文字は、その形からきてるんだから」

「そうなんだけど、『岡』よりも丘っぽいでしょ」

「何を言ってるのか……」


 彼は困惑して、眉が八の字になる。


「岡山とか静岡とか、県名に使われてる『岡』って、形が丘っぽくないじゃん」


 私の補足に、彼はやっと納得する。


「『岡』は形声文字だからね。成り立ちが違うんだ」

「なんで、同じ『おか』なのに、違う漢字があるのかしら」

「ちなみに県名だと、岐阜の『阜』だって、『おか』と読むよ」


 今月一番驚いた。


「あの字に訓読みあるの? 岐阜にしか使わないじゃない!」


 彼は苦笑する。


「しかも『こざとへん』の元になった字だよ」

「意外に重要な字だったわ。ごめんなさい」

「誰に謝ってるの?」

「もちろん『阜』よ」


 彼は我慢できずに、飲みかけのお茶を吹いてしまった。


「『おか』以外の意味がそれぞれ違うんだ。丘には墓、岡には傍ら、阜には豊かという意味もある」

「……ややこしいわね」


「このお茶屋さんは、丘の傍らで豊かなお茶の香りを楽しめるから、全部『おか』だね」

「珍しい、あなたが上手いこと言おうとするなんて」

「君とも長いからね、似てきたんだよ」

「何が?」


 彼は「忘れてくれ」と言って、お茶を飲み直す。


「ふふっ、おかしな人ね」


 私はハッとする。


「もしかして、『おか』しなって……」

「違うから、全然関係ないから!」


 彼は、私が言い終わらないうちに否定してきた。

 確かに、私みたいだわ。


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