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あなたと漢字を偏愛する  作者: M


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1/4

【糸】

【糸】

訓読み:いと

音読み:シ

部首:糸

画数:6

意味

 1 繊維を長く伸ばしたもの

 2 1のように細くて長いもの

 3 細く長く続く事のたとえ

 4 単位。一万分の一



 私たちは、川辺のカフェで昼下がりの時間を潰していた。

 堤防を走っているカップルが見える。夫婦だろうか。


「あのさ」


 向かいの席で本を読む彼に声をかける。


「ん、何?」

「最近は『夫』や『妻』じゃなくて、『パートナー』とか『配偶者』ってよく見るようになったでしょ」


 真面目な話だと思ったのか、彼は本を閉じた。


「ジェンダーへの配慮だね。まっとうな流れだと思うけど」

「正直なところ、少し言いにくいのよ。声に出すと、どこか堅くて、他人行儀な感じがする」

「分からなくもないね。英語や音読みの熟語は、そういう印象を受ける」


 私は、テーブルに身を乗り出す。


「でね、思いついたの。『糸』ってどうかしら」

「……糸?」


 彼の眉が八の字に下がる。


「ほら、有名な歌にもあるでしょ。あなたと私が縦の糸と横の糸で、織り合わさって……みたいな」

「かなりうろ覚えみたいだけど、きっと、中島みゆきさんの『糸』という歌だね」

「それそれ」


 私は人差し指を立てて、アイデアを説明する。


「だから、パートナーのことを『糸』って呼ぶのはどうかな?」

「確かに印象的で素敵な歌だけど、それだけでは何とも……」


 私は、彼の否定的な言葉を最後まで言わせない。


「それに、それにね。『糸』は『いとしい』にも通じるわ。糸しい人は、愛しい人なのよ」


 彼が少しだけ「おお」と反応する。


「結婚の『結』だって、糸へんでしょ。それに『縁』だって糸へんだわ」

「すごい、よくそこまで思いついたね」

「でしょ」


 鼻を鳴らす私を見て、彼は感心する。


「どうせ『赤い糸』くらいの発想だと思ってたよ」

「あ、それもあったわね」


 彼は「忘れてたのかよ」と苦笑する。


「そう考えたら、お互いを『糸』って呼ぶ方が、『パートナー』や『配偶者』よりも相応しいと思わない?」

「確かに、優しくて温かい響きに聞こえるね」


 彼は納得してくれた。また本を手に取り、目を落とす。

 そして、ページをめくりながら聞いてきた。


「じゃあ『夫妻』や『夫婦』はどう表現するんだい?」

「夫婦?……カップルよね。パートナーが糸だから二人だと……布?」


 私の語彙力ではそのくらいしか出てこない。

 彼は本を開いて私に見せる。長い指で、ある文字を指差した。


「『絲』……素敵な漢字があるのね」

「だろ?」


 彼は悪戯っぽく笑う。

 私は席を立って伸びをする。


「そろそろ行きましょうか」

「いいね」

「ねぇ、糸しい人。会計をお願いね」

「はいはい」


 彼はまた、苦笑した。


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