増える弟
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初投稿です。緊張します。
よろしくお願いします。
これは昔々の、まだ電気もない時代のお話。
ある雪深く降るような山間の村に、人が増える病気が発症した。
両親を早くに亡くし、その山で採れる石の採掘の出稼ぎに来ていた兄弟は雪の降る前に山を折りそびれてまもなく雪が深く積もるこの村で仕方なく冬を越えようとしていた所だった。
この病は発症すぐに偽物を殺さなければ本人が分からなくなるほど偽物の完成度が高くなるため見極めが難しく、処置が遅くなれば本物もろとも全員殺すしかない病とされている。
しかし、その奇妙な病はあまりに不気味で家族も医者も外聞を気にして口を閉ざすため医者同士でさもあまり知られていなかった。
弟が増える事となった年の離れた兄は、その対処法を聞きおよぶまでには既に遅すぎて、弟は20程に増えていた。
もはやどれが本物の弟か分からない。
全て弟に見えるそれらが口々に「にぃに…」「にぃに…」と呼ぶ。
兄はおかしくなりそうだった。
どれも弟に見える。
大切な弟に。
しかしもはや選択肢は残されていなかった。
気味悪がった村の人達が殺せ殺せと兄を追い詰める。
仕方なく全員を紐で繋げて山を登り、谷底へ突き落とした。
供養のために次の日花を持っていくと、なんと一人だけ生きていた。
「お前、俺が分かるか?」
「にぃに…?」
「あ、あぁそうだ!にぃにだ!」
弟はニコッと笑い、うん分かるよにぃに。
僕を見つけてくれてありがとう。
そう言って兄と一緒に山を下りた。
雪がぱらついて来たが、弟を連れ帰ったと村の人達に知られるわけには行かず日が暮れた頃にこっそりと家に帰った。
雪のおかげで翌朝には2人の足跡も消えたようだった。
弟を亡くし可哀想に思った炭鉱のおかみさんが少し食べ物を分けてくれて、なんとか食いつないでいた。
雪は日に日に深々と降り積もり、夜は服の擦れる音さえ大きく聞こえる。
2人は気配を消すようにして冬を過ごした。
春になって兄弟は地元に帰ることにした。
地元は遠く、山を2つほど越えなければならない。
長い移動は幼い弟には難しい。
途中でおぶって移動もすれば、弟は昔と変わらずぎゅっと抱きついてきた。
「にぃにはあったかいね。」
「にぃには力持ちだね。」
兄は弟のいつもの言葉にすっかり得意げになった。
兄ははじめこそ不安だったものの、冬の間何事もなかったからだ。
しかしそれはまがい物が、殺される危機により分裂を一事停止していたに過ぎなかった。
山を歩く弟は様々なアドバイスをした。
「にぃに、風が変わった。ここは危ない、移動しよう」
「少し先に湧き水があるよ。」
人では分からないことを当たり前のように口にする弟。
兄は弟が偽物だと察したが、もはやもう一度弟を殺す勇気はなかった。
ある時、夜に声を殺して泣き崩れる兄を弟は見た。
「もしかして、僕はまがいものなんだろうか。」
直感で感じた弟の不安はずっと心に残り続けた。
ある夜、森で夜を明かしていると体の横で何かが蠢く違和感で弟は目を覚ました。
恐れていた分裂が再びおこったのだ。
ほとんど衝動だった。
まだ人の形も成してないそれを弟は殺した。
兄の方をみるとすぅすぅと寝息を立ててよく眠っていた。
弟は分裂したこともそれを殺したことも兄には決して言わなかった。
そうしてずいぶん離れた地元を目指す長い旅を続けた。
弟に疲れたと言われれば兄はいつものようにおぶった。
「にぃにはあったかいね。」
「にぃには力持ちだね。」
まがいもののはずなのに、兄は本当の弟と過ごした気持ちになる。複雑な気持ちだった。
いよいよ地元が近づいてきた。
おそらく最後の野営になるであろう夜に弟は特段甘えん坊になった。
いつもは焚き火を囲って各々寝るのに、その日は抱っこして寝てくれとせがむのだ。
仕方なしに抱っこして横になれば、弟は嬉しそうに言うのだ。
「にぃにはあったかいね」
兄が地元に着いたとき、気がつくと弟の姿が消えていた。
どれほど探しても見つからない。
兄はふと思うのだ。本当にヘンテコな旅だった。
「ここはいい水だね、くんでいこう」
「にぃに、あそこに木苺があるよ。取っていこう」
「この葉を摘んでいこう」
そう言って、不思議と獣に襲われることもなく食べ物に困ることなく山を歩き地元まで帰ってこれた。
兄はあの子がまがい物と分かっていながら対処を先延ばしにしただけに過ぎない旅だったが、もはや兄のなかでまがい物はまがい物ではなくなっていた。
しばらくして兄は弟の墓を建てた。
「お前も俺の可愛い弟だ…」
そう言って兄は手を合わせた。
小説を書いたのがはじめてなので、
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