090話 5月23日#01
その後、俺たちはピエール号に乗り、バッカスへと急いで飛んでいった。
そして朝になり、ピエール号はバッカスの街に着いた。
「うーん……」俺は甲板から街を見つめた。「ここからだと、騒ぎが起こってるのかどうかすらわからん……」
『とりあえず、飛空艇発着場に入りますね!』
ピエール号はそう言うと、高度を下げながらポートへと近づいていった。
ピエール号から乗降場へ降りた時、俺たちは建物の中が静かなことに気づいた。
「他に誰もいない……?」
灯りも点いてるし、自動昇降機も動いたので、1階まで行くのに支障はなかったのだが……
「変ね……」街の中を歩いている時、俺の肩に乗ったリアがつぶやいた。「街の中も、誰もいない……」
しばらく歩いていくと、大きな通りへと出た。そこにいたのは……
「……あれ?飼育員さん?」
黒い髪のツインテールとメイド服……間違いなく、動物園であの気味悪い植物の世話をしていた少女だ。
「ようやく来た……」少女はかなり疲れているようだ。「通りの奥の方で、我を失った人たちが殺し合いをやってる……」
「……やっぱり!」
「とにかく、止めないと!」俺はレイの方を振り返った。「飼育員さんのこと、よろしく頼む」
「……何で私?」
「お前が出たら、死人が一気に増える」
「……え?」テンは、不思議そうにレイの顔を見つめていた。
「テンは……どうする?」
「……あ、僕も行くよ!一応、武器も持ってるし!」
『じゃあ、ワタクシはここにいます』ピエール33世はオレンジ色に光った。『お二人で、戦いを止めに行ってください!』
「……ちなみにあたしは?」
「お前はこっちだ!」俺は、肩から下りようとするリアを手で掴んで、走り出した。
「何でよー!?」リアは、手の中でばたばたと暴れた。
「お前、眠らせられるだろ!?……人を傷つけるわけにはいかないからな!」
「『眠らせ』……なるほど」テンが、横で何かをつぶやいていた。
それからしばらく走っていると、ようやく騒がしいところを見つけた。1本隣りの通りだ。
見ると、確かに正気を失った人たち同士が、殴り合ったり、刃物でも棒切れでも凶器になりそうなものを手に、他の人に襲いかかったりしていた。
その中に、その戦いをやめさせようと奮闘している人たちも見かけた。気絶させたり、眠らせたり、両手両足を魔法で拘束したりしている。
「お!兄ちゃんたち!いいところに!」1人の大柄なおっさんが話しかけてきた。「あの化け物が戻って来る前に、この人たちを止めてほしい!」
「……その『化け物』はどうした?」と、俺は訊ねた。
「黒髪でメイドみたいな服を着た女の子が、気絶させて海の彼方へ吹っ飛ばしたから、今はここにはいない」
「……飼育員さん……?」
――ともかく、今は目の前の騒ぎを止めないと。
「……この『ゾンビ』たち、僕たちの方にも向かってくるね」
テンは、攻撃をかわしながら言った。
「そうなんだ」おっさんは、武器|(?)のフライパンを手にした。「重傷者も出てるから、兄ちゃんたちも気を……」
突然、テンは右手に回転式拳銃を持ち出し、3発弾を撃った……早っ!
テンの撃った弾は3人の『ゾンビ』に当たり、3人とも地面に倒れた。
「テン、お前……」俺は目を見開いて、テンを見つめた。
「あ、大丈夫!」テンは何やらポーズをキメて、カッコつけていた。「今のは『麻酔弾』だから!死んでないよ!」
テンはさらに銃弾を3発撃ったが、全て別々の『ゾンビ』に当たった――しかも、正確に胸を撃ち抜いている。
「こいつ……強え……」
――俺がテンと戦うことになったら、もしかしたら秒で倒されてしまうかもしれない……
そんなことを考えながら、俺も騒動の中へと飛び出していった。




