088話 5月22日#15
「やっぱり、燃やしておくべきだったか?」
『それは止めて正解ですね』と、月の神はレイに言った。『あの『レイラ』という人を含め、彼ら全員が手練れの魔術師ばかりでした。『ウグイロン』だけでも倒すのが大変なのに、あの数の魔術師も加わったら、ワタクシたちに勝ち目はなかったと思います』
「それより、」リアは岩陰から出て、前方を指さした。「あのピエールって奴、止めたほうがいいんじゃないの?」
『止めるべきは、あの人ではなく『ウグイロン』の方ですね』
「そうだね」テンはジャイロコンパスを取り出して言った。「やっぱりあのドラゴン、バッカスに向かってた……急いだ方がいいね!」
俺たちは広いところへ出て、バッカスの方向へ行こうとした――その時、すっと雨が止んだ。
『これは……おそらく今夜中に、ワタクシの力が回復しますよ!』
月の神は空の様子を見て、ピンク色に光りながらはしゃいだ。
「でも、それじゃ間に合わないんじゃ……!?」
『ええ。でも焦りは禁物です』月の神は空を見上げた。『ワタクシたちの他にも戦える人はいます。彼らに加勢すると考えて、今は地道に距離を稼いでいきましょう!』
俺も空を見上げた。どんよりとした雲が薄くなり、柔らかな日差しが地上へ降り注いでいた。
俺たちは、道のりに、だいたい北の方へ向かっていった。多少西寄りに歩いている気がするが、まあまあ歩きやすかったので、そのまま行くことになった。
ピエールは、どこかへ消えてしまった。バッカスまでの道のりで会わなかったのは、真っすぐ向かったからなのか、途中で方角がわからなくなったか、モンスターに襲われたか――『不慮の事故』があったのかもしれない。
「もうそろそろ日が暮れるね」と、テンはつぶやいた。「夜のうちに歩くのは危険すぎるから、そろそろどこか休むところを探さないと」
「お!野宿だ!」
「……そこで喜ばない」
俺はレイの言葉にため息をつくと、テンにこう訊ねた。
「テンは何か持ってないのか?その……テントみたいなものとか」
「一通り道具は揃えてますよ?」テンはニタニタ笑っている。「君なんかより、ずっと頼りになるから!」
「何でそんなに俺に敵対心を燃やすんだよ?」
「……君がマドモアゼルたちに囲まれているから」
「言っとくけど、この中で女なのはレイだけだからな?」
――テンは俺の話、あんまり聞いてない気がする。
「ただ、テントは1人用のが1つしかないんで、必然的にレイさんしか入れません。つまり……」
――男と虫は外で見張り番だ!!!
『あ……ワタクシはそちら側にカウントされるんですね』
「あたしはテントの中でいいわよね!?こんなにちっちゃくて可憐な『乙女』だしー?」
「いいけど、そうコロコロ態度を変えるなよ……」
「……読書の時間が確保できた」
「そうそう!」テンはこちらを振り返った。「僕まだ何も聞いてないんだけど……君たち何か隠し事してるね!?」
「隠してるわけじゃねえよ。説明するのが面倒なだけだ」
「……じゃあ見張り番のついでに、僕に説明してもらおうじゃないか、カイト君!!!」
「そんなに語気を強めなくても、ゆっくり説明してやるよ」
俺ははあとため息をつきながら、「ちょっとは寝られるといいんだけどな……」と悲しく思った。




