084話 5月22日#11
そんなわけで、テンにバッカスまでどうやって行ったらいいのか、教えてもらうことにした。
「実はですね……」テンはニヤッと笑った。「僕には『秘密兵器』がありまして」
「『秘密兵器』?」
テンは帽子を手に取り、その中から何かを取り出した。
「ジャジャーン!!」
『「「「何それ?」」」』
俺の目には、透明なところも、大きさ的にも、占い師が使う水晶玉にしか見えなかった――が、中に、大きな赤い矢印と、それと交差する紺色の矢印、あとその2つの矢印の交点から垂直方向に、緑色の軸があった。
「あれ?」思ったより反応が悪かったからか、テンはコケていた。「誰も知らない?」
「知らないな」レイは腕を組んだ。「最新式の機械か何かか?」
「んー、『最新式』ではあるけど、これより古いタイプのなら、わりと昔からあったよ」
テンは帽子を被り直して、自慢げに球体を掲げた。
「これはね……『ジャイロコンパス』っていうんだ!」テンは中にある矢印と軸を指さした。「この紺色の矢印の先が北、緑色の軸が天と地、そして赤い矢印の先にあるのが……僕たちの目的地、バッカスだよ!」
「……どういう仕組みなんだ……?」レイは興味深そうに球体を眺めた。
「これは魔法で外から見えないようになってるんだけどね、中に『独楽』みたいな回転する円盤が入ってて。その『独楽』の軸は、回り続けてる限り必ず南北方向を指すんだ!」
「それ、見たいな」
「……解体するとまた組み立てるのが面倒だから、今度機会があったらね」
――とはいえ、
「その赤い矢印の指す方向に進めば、バッカスへたどり着けるのね♪」と、リアが嬉しそうに言った。
「そのとおり!」
テンは、赤い矢印の先を指さした。
「……というわけで、全員僕について来たまえ!」
「何か、だんだんテンのキャラがわかってきた気がする……」
――しかし、それから10分もたたないうちに、別の問題にぶち当たった。
「やっぱり腹減った……」
「……え?君たち、食べ物持ってないの?」テンは目を丸くした。
『いや、持ってはいるんですが、ワタクシがまた変身できるようになるまで、取り出せないというか、何というか……』
テンは月の神をちらりと見ると、「うーん……よくわかんないけど」とつぶやいた。
「……それなら、僕の料理、食べます?」
「「「食べる!!!」」」
それを聞いたテンはため息をつくと、帽子を手に取り、中から大きな弁当箱を取り出した……帽子の大きさギリギリで、帽子から無理やり取り出していた。
「1人3つまでだよ」
中には、サンドイッチがたくさん入っていた。
「おおー!!」
「美味そう……!!」
「いただきまーす!!」
「……君は食べないのかい?」テンは、また月の神をちらっと見た。
『ええ。さすがに神なので、人間の食べ物は食べません』
「『神』って言うけど……ホントに神なの?」テンは、またまた月の神をちらっと見た。
『ええ、そうですよ!信じられないとは思いますが、』
月の神は、テンに少し近づいた。するとテンは、月の神から少し遠ざかった。
『信じればご利益ありますよ〜!ワタクシ、なかなかに義理堅いので!!』
「……そ、そうかい?」
月の神は、テンと仲良くなりたいのか、どんどん近づこうとするが、テンは蟹歩きでどんどん離れようとする。
その様子を見ていた俺は、テンにこう訊ねた。
「もしかして、テンって虫が苦手なのか……?」
「ギクッ!」
――図星だったようだ。




