076話 5月22日#03
『では、出発しますよー!!』
ピエール号は、雨にも負けない大きな掛け声と共に、大空に向かって飛び出した。
「何だかんだ言って、初めて飛空艇に乗るわ!」リアは、案外楽しそうに窓の外を眺めていた。「もし晴れていたら、言うことないんだけど」
「本、読む、久しぶり。できない、辛かった……」
「……レイ、」俺は苦笑いした。「もう片言でしゃべる必要ないだろ?」
「え!?」リアはこちらを振り返った。「それ、デフォルトじゃないの!?」
すると、「はああああ……」と、レイは長めのため息を吐いた。
「……しゃべるの面倒だから、ずっとこのスタイルでいこうと思っていたんだが……今、それも面倒になった」
「……マジで普通にしゃべった」リアは目を丸くしていた。「7日間ずっと片言で生きてたの?あんた、頭おかしいわね!」
――俺の羞恥心を散々おちょくって喜んでた男には、言われたくねえよな。
「そういえば、何でリアは女装してんだ?」
「処世術よ、しょ・せ・い・じゅ・つ♡」リアは、ぱちんとウィンクをした。「この小さな体だと、女の子の方が何かと上手くいくのよ〜♪」
「そもそも、そんなに小さくなる必要、なくね?」
「……名前言ったら、男だとバレそうだが」
レイがそう言うと、俺とリアはレイの顔を見た。
「以前、『リア』って名前の王様が出てくる本を読んだことがある」
「……有名な古典作品だけど、」リアはぽすんとクッションの上に座った。「あんた、そんなもの読むだけの教養があるんだ?」
「『本の虫』だからな」俺はため息をついた。「テルメア語も流暢にしゃべれるみたいだし」
「小さい頃から『おひつじ座の星霊』に、『五大魔法大国』の言語を叩き込まれた」
「……てことは、お前、5か国語話せるの!?」
「うん。いちおう」
――何だか、レイが全然違う世界の人に見えてきた。
「まあ、心配は無用よ」リアは爽やかに笑っていた。「あたしが相手する男は、そこまで教養のないバカばっかりだから」
「あのなー……」
俺は、本を読み始めたレイの姿をちらりと見てから、天井を見上げた。
「ピエール号の方は、順調か?」
『ええ!』ピエール号の声が響いた。『しばらくワタクシだけで行けそうです!』
「なら俺は、暇つぶしに筋トレしてようかな」
「あんたって、『脳筋バカ』?」
「その言葉は言わないでくれ。トラウマになってるから」
それからしばらく経った頃。
先ほどとは打って変わって、ピエール号が泣き言を言い出した。
『誰か助けてください〜!雨が強すぎて、前が見えませ〜ん!』
「…………え?」
俺は窓へ近づいて、外の様子を見た。
――確かに、滝のような大雨が降っている。
しかも、横殴りの強い雨で、風もかなり強いようだ。
『風に煽られるので、だんだん方向感覚に自信がなくなってきました……』
「何か、雨降らせるモンスターが出てきたのかしら?」
リアも隣で、窓の外を見つめていた。
「もしかしたら、ただの自然現象かもしれねえが、」俺は扉を開けて廊下に出た。「どっちにしても、方向を確認しよう。とりあえず、東に進めばいいんだから……」
レイは、まさかのペンタリンガル(5か国語話者)。ただし、イェリナ語以外は習熟度がまちまちのようです。




