073話 5月21日#03
この調子で俺は相手を瞬殺し続け、準々決勝、準決勝と、危なげなく勝ち進んでいった。
そして、決勝の相手は、
「前回の優勝者、左官のイナサクさん!!!」
――強敵が現れた。
イナサクさんは、筋肉量がありえないぐらい多い。腕だって俺より一回りくらい太いし、下半身もそれなりに鍛えられている。
俺は『ボディビルディングをしている人がいる』というアルさんからの情報を思い出していた……左官の仕事で、こんなに筋力は要らないよな?
「さあ、勝つのはどっちだ!?」
俺は、どんと台に肘をつける。
イナサクさんも肘をつけ、2人で手を組む。
「よーーーい、どん!!!」
――予想通り、イナサクさんは瞬殺できなかった。今まで受けたことのないほどの力で、俺の腕をねじ伏せようとしてきた。
こういう勝負では、一瞬でも集中力が切れて力が抜けたら負けになる。とにかく、相手の隙を必死に待ち続けるしかない!
――そしておそらく、そんな俺の『闘技士』としての経験値が、試合の勝敗を分けた。
「…………!!!」
ほんの一瞬だけ、イナサクさんが何かに気をとられた。俺はその一瞬を逃さず、全力でイナサクさんの腕をねじ伏せた。
「……よっしゃ!!」
「し、試合しゅーーりょーー!!!」ライトニングさんは、この場にいる誰よりも興奮していた。「なんと!!飛び入り参加のカイト君が!!!『腕相撲大会』で優勝しましたあーーーー!!!!」
「「「おおおおおおお!!!!!」」」
俺は、イナサクさんが何に気を取られたのか気になって、ちらりと後ろを振り返った。
そちらでは、女性たちがまだ試合をやっていた。その間にある仕切りの上に、ちらりと人形のように小さな顔が見えた気がした。
――と、まあこんな感じで。
俺は優勝賞品の『現金|(1万*)』と『菓子の詰め合わせ|(1キログラム)』を手に入れた――1キロの菓子って、どんなもんなんだよ……。
「ほっほっほ!」試合を見に来ていたリアの祖父母が、ニコニコと笑っていた。「若者よ、ありがとう!!」
俺はどっしりと重い菓子の詰め合わせを、爺さんに渡しながらこう言った。
「こちらこそ、ありがとうございます。お陰で、貴重な体験ができました」
「あ、あの……」俺の懐から、リアがひょこっと顔を出した。「じいや、あたし……」
「いっておいで」爺さんの代わりに、婆さんが言った。「いつ終わるんだか知らないけど、頑張って無事帰ってきておくれ」
「ばあや……」リアは目に涙を浮かべた。「ありがとう、いってきます……!」
――なんだかんだ言って、お互いにわかり合えてるじゃん。俺は3人を見比べながら、うんうんと頷いた。
「そういうわけでの」爺さんは、俺たちの方を向いた。「カイトさん、レイさん、月の神さん、ウチの孫息子をよろしく頼むぞ」
「はい。お任せ……ええええ!?」
俺が驚愕しているのを顧みることなく、爺さんと婆さんはその場を離れていってしまった。
「……あれ?どうしましたか?」
お手洗いから戻ってきたアルさんは、コチコチになっている俺を不思議そうに見つめた。
「ま、まさ……お、男……!?」
「え、えへ♡」
「え?何の話?」
「アルさん、気ニシナイ」
こうしてリアが、旅の新たな仲間として迎えられることになった。
優勝賞品のお菓子は、締めて3万*(スタ)くらいの価値があります。ユピテルのギルドのみなさんは、たぶん甘党派なのでしょう。




