070話 5月20日#06
「は?何言ってるか、わかんないけど?」
リアは、俺をぎっと睨んだ。
「……ちょっと爺さんたちに確認してくる」俺はさらっと受け流し、後ろを向いた。「ジャクリンさんには、もう少し寝てもらおう」
そして、リアが何も言わないうちに、俺は例の店へと走っていった。
――そして、すぐ帰ってきた。
「それでいいってさ」唖然としたリアの顔が、めっちゃ快感だ。「出発する直前に顔を出せば、もう何も言わないって」
「ちょ」リアは言葉が出てこなくなっていた。「な、何でそんな……勝手に……」
「いいじゃねえか。お前は家に帰らなくていい、爺さんは好きな菓子が食える、俺たちは現金がもらえる。みんなにっこり笑顔で収まるじゃん」
『あ、現金が欲しかったんですね』後ろから、ピエール33世のつぶやく声が聞こえてきた。今は、ロボットの姿になっている。
「でも、『旅』なんて、あたし……」
――あれ?何か様子が変だ。
「そ、そりゃ、あの狭い工房に居続けるのに比べれば、ずっと楽しそうだけど……」
「……さてはお前、『旅に出たい』って思ったことあるだろ?」
「ギクッ」
めちゃくちゃわかりやすい反応をした。
「1人じゃないから限度はあるが……お前の言う『自由』が手に入るんだぞ」
「『自由』……」
『あー。思わず口を挟んじゃいますけど、』と、ピエール33世は言った。『旅っていいですよ。仲間同士でしゃべったり、一緒に街を探検したり、三度の食事もみんなで作って食べたり……』
「……そこは譲らねえんだな」俺は苦笑いした。
『きっとあなたも、あなたなりの楽しみ方を見つけられるはず――ワタクシたちも、あなたならウェルカムですよ!』
リアはずっと、自分の足を見つめ続けている。
静かに待っていると、やがてリアは顔を上げ、意を決してこう言った。
「いいわ。一緒に行って、あ・げ・る♪――その代わり、」リアはにやりと笑った。「『力自慢大会』で優勝しなかったら、今の話はナシよ」
「……絶対勝ってみせるさ!」
『おおお!』ピエール33世は、ピンク色の光を発しながらくるくる回った。『もう1人仲間が増えそうです!……あと、カイトさんが頼もしい!』
「はあ、まさか……」リアはぼんやりと空を見上げた。「あのじいやばあやに賄賂贈ってあたしを解放しようとする人が、この世にいるなんてね」
「……菓子を『賄賂』って言うな」
ともかく、話はまとまった。後は、俺が腕相撲大会で優勝するだけ。
勝負の相手がどんな奴らなのかわからないが、俺は絶対に負けるもんかと心の中で燃えていた。
「……だって俺、」自信満々に空を見上げた。「学校の腕相撲大会で、3年連続で優勝したんだぞ?」
――それを聞いて、リアが「あんたも『腕力バカ』?」と苦笑いしながら、ジャクリンさんの魔法を解いた。
数秒おいて、ジャクリンさんは目を覚まし、ゆっくりと起き上がった。
「あれ、私……どうしたんだろう……?」
「きゅ、急に倒れちゃったので、しばらくここで寝かせていました」俺はそばに寄ったが、顔が直視できない。「医者を呼ぼうかどうしようか迷っていたんですけど……大丈夫ですか?」
ジャクリンさんは「ええ」とは言ったが、何か違和感があるのか、首を傾げていた。
「……ちょっと仕事で疲れちゃったのかな?」ジャクリンさんはそうつぶやいた。「午後は仕事を休ませてもらおうかな」
どうやら本当に記憶がないらしいので、こちらの問題は解決済みということにしよう。
――と、ほっとしていたら、その後の会話から思わぬ一撃を受けた。
「……そういえば、今日って何日だっけ?」
ジャクリンさんがそう言うと、レイは指折り数えて言った。
「……5月20日」
「ああ、そうだったね。じゃあ私、明日は元々やす……」
「……ええええ!?ま……!!」
俺が過剰反応したので、レイとジャクリンさんは不思議そうな顔をこちらに向けた。
「どうしたの?」
「5月20日……」もう泣いていいですか。「お、俺の誕生日……」
目の端に、ジャクリンさんの死角にいるリアが、腹を抱えて笑っている姿が映った。




