069話 5月20日#05
「……いやよ」
俺が老夫婦の頼み事の話をすると、リアはぶーっと膨れた。
「あんたに言ったでしょ。あたしは帰らない!」
「いや、せっかく『石』を譲ってくれた人の頼みを無下にするわけには……」
「別に気にしなくてもいいんじゃない?欲しかった『石』を手に入れたわけなんだし」
「それはそうだけどさ……」
「だったら、早くこの街から出てって!」
「えっと、お願いだからさ……」
――こういう家族間の繊細な問題に、他人を巻き込まないでほしい。
「じゃあ!この子を起こしてやんない!」
リアはそう言って、自分が上に堂々と座っているジャクリンさんを指差した。ジャクリンさんは、まだ眠っている。
「あなたなら、できるって教えたでしょ?」
「……それは困る」ジャクリンさんが起きた時のリアクションが恐ろしい。
「それなら、これ以上あたしたちに関わらないで!」
――取りつく島もない。
俺が頭を抱えていると、レイが肩をちょんちょんつついてきた。
「ん、何?」
レイは、公園から見える旧市街への入り口を指さした。
よく見ると、何かの立て看板が置いてある。
「『ギルド対抗力自慢大会』……?」
――なんすか、これ?
「あ〜あ」リアは鼻を鳴らした。「『力が全て』って信仰を持つオジサマたちが、毎月のようにやってる大会よ」
「『毎月』……」
――『毎年』とかじゃないんだ。
「『ギルド』……何?」レイはこてんと首を傾げた。
「簡単に言うと『同業者組合』ね。同じ商売してる人たちが集まって、くっだらないことしてんのよ」
――『くっだらない』は、かわいそうだ。
「そういえば、爺さん婆さんの店って、何やってんだ?」
「『魔法彫師』よ。でも、最近はほとんど仕事してないみたい」
「どうして?」
「老けたせいで仕事の質が落ちて、鍛冶師の『ライトニング』っておっちゃんにダメ出しされて、それから注文が大幅に減っちゃったらしいわ」
――意外にも、ライトニングさんの名前が出てきた。
「後継ぎもいないし、そろそろ店を畳もうとしてるみたい」
「……ちなみに、リアは後を継ぐつもりは……?」
「もちろん、ないわ」
何か、ライトニングさんもリアの祖父母も、いろいろ苦労してるのが垣間見える。
「『魔法彫師』って、魔力が一定以上高くないとなれないの。だから、そもそもなれる人が少ないのよ」
「ここには、他に『魔法彫師』の工房はないのか?」
「ええ。じいやばあやのギルドには、他に誰も入ってないわ」
俺は、立て看板に目を移した。今回の種目は『腕相撲』で、優勝者には賞品がもらえるようだ。
賞品は、現金とそれから……ん?『お菓子の詰め合わせ』?
「この賞品……爺さん喜ぶんじゃないか?」
「あんな、足元もおぼつかないような老爺に何ができるって言うのよ?」
「……俺が出る」
「は?」
「別に飛び入り参加オーケーなんだろ?」俺は立て看板を指さした。「俺が出場して、老夫婦に菓子をプレゼントする」
「……で?」
「それと『リアを俺たちが監視する』って条件で、たぶん呑んでくれると思う」
「何を……『監視』?」
リアは眉根を寄せ、俺を凝視した。
俺は、リアに向かってにやりと笑った。
「お前を、俺たちの旅に連れて行く」




