068話 5月20日#04
俺とレイは、リアの祖父母の経営している店の中へ入っていった――そういえば今さらなんだけど、一体何の店なんだろう?
「いらっしゃい」夫婦は揃って、テーブルを囲んでお茶を飲んでいた。「待ってましたよ」
「えっと、」俺はまだジャクリンさんのことを引きずっていた。「この人が、あの、星霊使いの……」
「レイ」レイは自分で名前を言った。「ワタシ、おひつじ座の星霊使い、デス」
――ここでは、片言でしゃべる必要はないのでは?
「なるほど」婆さんはこちらをちらっと見た。「で、もう1人の『友人』というのは?」
『ワタクシのことでしょうか?』
レイのネックレスに擬態していた月の神が、久しぶりに見る『幼虫』の姿に変身した。
『ワタクシ、月からやって来ました『月の神』です!ワタクシの力を元に戻すのを、カイトさんやレイさんに手伝ってもらってます!』
月の神を見た老夫婦は、さすがに驚いた顔をしていた。
「私たちがリアちゃんから聞いた話では、」と、婆さんがつぶやいた。「月の神は美しい『蝶』のようなお姿をしていると……」
『あー。あの『成虫』の姿には、本来の魔力量になってないとなれないんです。かなりデカいんで!」
「ほおー……?」
老夫婦は月の神をまじまじと見つめて、感心したような声を上げた。
『ワタクシが本物かどうか、しっかり見極めて判断してください!』
月の神は上体を反り返して、自信満々に言い放った。
「うーむ」爺さんがゆっくり言葉を紡いだ。「わしらには、あなたが月の神か否かを判断する材料がないので、なんとも言えんのじゃが」
「これだけおしゃべりな大きい虫さんは、見たことないですからねえ」婆さんも、判断つかずに戸惑っているようだ。
『まあ、そうでしょうね!世界で1人……じゃない、1匹……でもない、1柱の神ですから!』
正直に言うと、まだ俺もこの虫が『神様』なのかどうか判断しかねているのだが、今までに不思議な力をいくつか見せてくれたので、そうなのだろうとは思っている。元々めっちゃデカかったし。
「しかし、」婆さんは、俺の方を向いた。「あなたには、面白い『友人』がいらっしゃるんですね」
「『星霊使い』と『月の神』……か」爺さんも俺の方を向いた。「いい『友人』がいらして、ほんっと羨ましいのう」
「ま、まあね……はは……」
――たしかに、面白いといえば、面白い。めっちゃ振り回されるけど。
「……あ、そうそう。『いて座の石』でしたね」婆さんは、なぜかカウンターの下をごそごそ探った。「それはですね……」
婆さんがカウンターの上に乗せたのは、いろんな菓子が詰め込まれた袋だった。
「この中に……」老夫婦は袋から次々に中身を取り出し始めた。「ああ。これはおじいちゃんが好きな……」
「これは、おばあちゃんが昔よく食べてた……」
「こっちは、リアが子どもの頃好きだった……」
「懐かしいのう。あの子は今も好きなのじゃろうか……」
「おお。これは……」
「……あのー……」
俺とレイと月の神はじーっと老夫婦に視線を送り、「早く見たいんだけどな~」と催促していることを示した。
「……おお!出てきた!これじゃ!」
爺さんが取り出したのは、銀の包み紙に包まれた何か。はっきり言って、他の菓子と全く見分けがつかない。
「ほれほれ!これが『サギタリウスの石』じゃよ!」
爺さんは包み紙を剥いて、俺たちに中身を見せた。
それは、確かに『石』だった。今までに手に入れた『石』の、色違いだ。今回は、ひまわりの花びらのように明るい黄色だ。
「ありがとうございます!」思わず俺は、恭しく『石』を受け取った。
『やりました!』月の神は、ダンスのつもりなのか、くねくねと体をくねらせた。『これでまた1つ、『石』が集まりました!』
「よし!それじゃ、これで……!」
「あ!ちょっと待つんじゃ」
爺さんに呼び止められて、俺たちは立ち止まり、爺さんの方を向いた。
「あれから、わしらのかわいいかわいいリアちゃんを、どこかで見たかね?」
「えっと……」
俺は、何か嫌な予感がした。
「あの子を、ここへ連れ戻してほしい!『石』の代わりと思って、あの子を説得してここまで連れてきてほしいんじゃ!」
一難去って、また一難…………




