064話 5月19日#06
その日の夜。
宿の一室で、俺とリアによる大|(?)バトルが勃発していた。
俺は、リアを捕まえて袋か何かに詰め込んで、爺さん婆さんの店へと連れて行こうと躍起になっていた。
対するリアは、走って逃げて物陰に隠れて、俺の企みを阻止しようとした。
「あたしはぜっっっったいに、あの店へは帰らない!!」と、リアは宣言した。
「でも、昨日は帰ったんだろ?」
「食料をくすねただけよ!」リアはちょこまかと走り回った。「どうせウチ、お茶菓子あり余ってんだし」
「茶菓子なかったのお前のせいかよ!」
「と〜に〜か〜く!」リアは、人差し指でビシッと俺を指差した。「あなたはあたしの作戦を、明日決行するのよ!」
「お前が帰るほうが、ずっと健全な方法だと思うが?」
俺が言い返すと、リアはむーっとむくれた。
「確実な方法じゃないわ。うちのじいやばあやが激怒するとどうなるか知らないでしょ?」
「『激怒』させるほど反抗しているお前のほうが悪いんじゃん!」
「あたしの行動の方がフツーよ、フツー!子どもは、子どもの親|(祖父母)の言いなりになんてならないの!」
「えー」俺にはわけがわからなかった。「言いなりにならなくても、それなりにお互いに理解し合おうと努力できるんじゃないか?」
「……あなた、親いないでしょ」
「孤児だが、悪いか?」俺はむっとした。
「はー、だからわからないのね」リアは肩をすくませた。「『子どもと親|(祖父母)の間の確執』ってやつが!」
「いちおう、孤児院の院長は厳しい人だったし、それなりにわかってると……」
――俺は小さい頃に親を亡くし、それ以来孤児院でずっと育ってきた。
だから、『親がいる子どものほうが愛情注いでもらって、幸せに育つんだろうな』……と、孤児院のスタッフたちに怒鳴られるたびに想像していたのだが。
「いいえ!……まずね、親|(祖父母)は子どもの考えなんて受け入れてくれないものなの」リアは腕を組んだ。「無理やり子どもに自分たちの価値観を押し付けてさ。子どもが抵抗すると、それはすべて子どものせいになるの!」
何やらスイッチが入ったようで、リアは思いの丈を大きな声でぶちまけた。
「しかも、子どものデフォルトの考えって、どうしても親|(祖父母)の考えになるの。だから、ずっと「これは、本来の自分とは違う」って、悩み続けることになるのよ!その長いトンネルから脱出するまで、いったい何年かかると思う!?」
「え、えーっと……?」
「食事にしてもそうよ!自分たちの好きなものしか食べないし!三度の飯を作ってやってるのは自分たちなんだから、感謝しなさいって押し付けるし!支度を手伝え手伝えってうるさいし!……ちょっとは子どもの都合を考えてほしいわ!!」
俺は隙を見てリアを掴まえようと手を伸ばしたが、リアは持ち前の素早さで俺の手から逃れた。
「とにかく!」リアは弓に矢をつがえ、俺の方に向けた。「あたしは帰らない!これからは自由に生きるの!あんな爺さん婆さんの言いなりになんて、もう絶対ならない!」
「ちょっ……そこで武器構えるのは、反則じゃね!?」
俺の武器では、リアが小さすぎて到底当てることはできない。
でも、とりあえず引き抜いて、剣を前に構え――
「『ヒプノーシス:デュオデシム』!!」
リアは突然弓矢の向きを、ほとんど真上に向けた。その矢は天井に当たる前に放物線を描いて下向きになり、そのまま俺の眉間にぷすっと刺さった。
「いや!今の動きは、おかし……い……」
俺は急に力が抜け、剣を床に落とし、ベッドにぶっ倒れた。
そしてそれから12時間、一度も目を開けることなくぐっすりと眠ってしまった。
何だかリアが思いの丈をぶちまけていますが、一人っ子もそれなりに苦労するんですよ。




