063話 5月19日#05
「あらぁ〜、いい作戦思いついちゃった♪」
そうリアが言ったのは、宿へ向かう途中、裏通りを歩いている時だった。
そして、リアが耳打ちして俺に作戦の内容を伝えた瞬間、
「…………はああああああ!?」
――俺は、裏通り全体に響き渡るような大声で叫んだ。
「ちょ、待って!」俺の肩を下りて、手近な窓枠に座ったリアを、愕然としながら見つめた。「それ……全然意味わかんねえんだけど!」
「だからぁ〜」リアは楽しそうに笑った。「まず、『ジャクリンさん』を、あなたにメロメロデレデレにするでしょ♡」
「そっからして意味わかんねえ!」
「……で、あなたがジャクリンさんをデートに連れ出す♡」
「なんで?どこに?どうやって!?」
「そこはあなたが考えて」丸投げか。「で……最後にジャクリンさんにキスして♡眠らせて♡アリエスたちと合流するの♡簡単な作戦じゃない♡うふふ♡♡」
「いやいやいや、全然簡単じゃねえから!」俺は首を振った。「まず『メロメロデレデレ』の意味がわかんねえ!」
「あたしにこの矢で射られたどんな子も、あなたはイチコロにできるの♡」リアは再び弓だけで矢を射る動作をした。「その『ジャクリンさん』も、どんな人か知らないけど、あなたにメロメロになるわ♡」
「何だ、その気持ち悪い能力は!」
「『恋のキューピッド♡』って言うでしょ?」
「いや、お前『いて座の星霊使い』だろ……!?」
――この時点で、既に俺の羞恥心は限界を超えるだろう。
「で……「ちょっと君だけに話したいことがある。ついてきてくれ……」って耳に囁いて……♡」
「そんなん言えるか!」
「で……路地裏に連れ出して……」リアは頬を赤らめて言った。「チュッ♡てするの……きゃー!」
「それが一番わかんねえ……」
「それもそうね……実は、あたしの魔法は『あたしにハートをぶち抜かれた人に恋をしている人がキスすると、そのぶち抜かれた方の人が眠っちゃう♡』って感じのでぇ……♪」
「何それ……」俺は頭を抱えた。
「心配しないで!もう一度キスすれば、また起き上がるわよ♡」
「……そこはお前が魔法を解けよ」
俺は「はああ……」と、長めのため息をついた。
「そうそう、それと♪あたしの魔法が効いてる間のことは、ジャクリンさんは忘れるから気にしないで♪」リアはニコリと屈託のない笑顔を見せた。
「……てことは、俺は忘れないってことか」
「ええ、そうよ♪」
――肯定しやがった。
「ジャクリンさん、いい人っぽいのに、何でそんなこと……」
「『ファーストキス』にしたくなければ、唇じゃないところでも大丈夫よ♪投げキッスもオーケー♡」
「そういうこと言ってんじゃねえ……」
――ひどい。ひどすぎる。
他に何かいい作戦はないのか。
「あたしが考えられる中では、一番いい作戦よ♪」
「どこが……」
俺はあまりの衝撃で、しばらく壁に寄りかかっていたが、やがて正気に戻って、リアに訊ねた。
「ホントにそれ以外、方法はない?」
「……ないわね」
――断言しやがった。
でも確かに、俺とレイと月の神だけでは、今の状況は変えられな……ん?
「待てよ」俺はリアを見つめた。「素直にお前が家に帰って、あの老夫婦に『石』を返してもらうよう説得すればいいんじゃ……?」
「……却下」リアはぷいとそっぽを向いた。「絶対それはしない」
俺は、再び長いため息を吐いた。




