060話 5月19日#02
午前10時頃までカフェで話をした後、俺はレイたちと別れて、1人で旧市街へとやって来た。
少し奥まで進むと、俺は立ち止まって周囲を見渡した。
「『いて座の星霊使い』か……」
そこには、昨日窓辺にいる女性を見た小さな店があった。
「ちょっと話を聞いてみるか」
俺は、店の中へと入っていった。
――中は、まるでドールハウスの中だった。
花柄の壁紙、磨き上げられた木の床、置いてある全ての棚には、どの段にもレースの敷物が敷かれている。棚に入っているのは、たくさんの本。それと、人形の置き物。どういうわけか、爺さんの人形が多かった。
――あ、違う。確か『小人』ってやつだ。つるはしを振りかぶっていたり、石を積んだトロッコに乗ったり、おとぎ話に出てくるドワーフそのものだ。
カウンターにはチェック柄のテーブルクロスがかけられていて、その上にドワーフの人形が1人だけ置かれていた。銀色のベルの隣でハンマーを振り上げている。たぶん、頭の上のスイッチを押すと、呼び鈴を鳴らしてくれるんだろう。
――にしても。
「何か、入る場所間違えた気がする……」
ここは、剣を引っ提げている男が1人で入るようなところではない……と思う。
「……まあ、いいや」
俺はカウンターに近づき、ドワーフのスイッチを押した。
――チャリリリン♪
――何か、予想以上にかわいらしい音色が聞こえてきた。
「はいはい、いらっしゃい」
俺は目を丸くした。出てきた人物が、意外すぎる。
「ど、ドワーフ……?」
長いヒゲをたくわえた爺さんで、見た感じ身長が1メートルちょっとしかない。眼鏡をかけ、魔法使いみたいな三角帽子を被り、童話の世界のドワーフが現実に現れたかのようだった。
「いや。ただの人間じゃよ」
爺さんがにこにことそう言うと、奥からのそのそ、もう1人現れた。
「いらっしゃい……まあ、またすごい美丈夫さんが来ましたね」
同じような身長の、婆さんだった。こちらは、そのまま編み棒を持って暖炉脇のロッキングチェアに座っていそうな、毛糸帽をかぶり、ガウンを着た人物だった。
俺は婆さんのお世辞を聞き流して、早速本題に入ることにした。
「ちょっと訊きたいことがあったんです。こちらのお店に……」
「まあまあ。お茶をお出ししますから、どうぞそこの椅子におかけになって」
――いきなり出鼻を挫かれた。
「えっと、ありがとうございます。それで、ここにきの……」
「お茶は紅茶とハーブティー、どちらがよろしいかしら?」
「えっと……紅茶で。それで、き……」
「お砂糖はいくつ?」
婆さんはのんびりと、俺に角砂糖の入った瓶を見せた。
「じゃ、じゃあ、1つお願いします……」
「それで、お兄さん」爺さんが、俺と反対の席にゆっくりと腰かけた。「今日は何の用で?」
「あの、訊きたいことがあるんです」ようやく話を聞いてくれそうな雰囲気になった。「昨日、この店の出窓に……」
「あらまあ、困った」奥から婆さんが出てきた。「お茶菓子を切らしてしまって……さてはおじいちゃん、隠れて全部食べたでしょう?」
「そんなわけなかろう。わしは『だいえっと』中なんじゃぞ」
「そう言って、この前もたくさん食べてたじゃありませんか」
「そんな記憶ごじゃいません」
「うそよね?」
「ウソじゃごじゃいません」
「……まあ、仕方がないわ。お兄さん、この飴玉1粒で許してちょうだい」
「……はあ……」
――俺は、梨味の飴を1つ手に入れた。
この世界に、ドワーフはいないみたいですね。エルフとか人魚とか吸血鬼とかも、創作物の中にしかいないそうです。
そういうファンタジーじゃなくてごめんなさい。




