057話 5月18日#03
そのうち、とある区画までやってきた。柵に囲まれた平らな地面の上に、大きな何かが横たわっていた。
「んんー、これは……?」
何となく人の形をしているようだが、大きすぎてよくわからない。俺たちのいる方向からは、脚しか見えなかった。
「これは……」ジャクリンさんは目を丸くした。「もしや、金属の『ゴーレム』では……!?」
「そんなのいるんですか」
「いるらしいよ。でもゴーレムの大きさって、普通は人間より一回りくらい大きいだけのはずなのに……」
――今目の前にいるやつは、足のつま先から踵までの長さだけで人間の身長ほどもある。こんなの暴れたら、街の1つや2つは徹底的に破壊つくされてしまうだろう。
「つ、強そう……」
「あ、それ違う……」少し離れたところから、消え入りそうな声が聞こえてきた。「それはモンスターじゃなくて、あたしの人型ロボットで……その下にいるのが、ここの展示モンスター……」
振り返ると、背の低い少女がそこに立っていた。
黒く長い髪をツインテールに結んで、大きなピンク色の目をじっとこちらに向けている。服は真っ黒なメイド服のようなものを着ていて、左腕に大きなバケツをぶら下げていた。
「え、えーっと、」俺は少し戸惑った。「飼育員さん?」
「うん」
少女はてててと、柵へと近寄っていく。そしてバケツの中身を、柵の中へとぶちまけた。
「ちょっと待って……」
少女は柵を乗り越え、ゴーレムの方に走っていった。
何が起こるんだろう?とドキドキしていると、ゴーレムの下から、まるで舌のように蠢く『何か』が現れた。
1つ。2つ。4つ。7……うわあ!数え切れない!
どの『何か』も、少女がぶちまけた生き物の内蔵らしきものに向かってどんどん伸びていった。
「えー……」
さすがの俺もドン引きしていると、ふと少女の姿がないことに気がついた。
その瞬間、ゴーレムの腕が動き出した。地面に手をつき、ゆっくりと上半身を起こした。
すると、その下から、たくさんの赤い葉っぱがぴょんぴょん飛び出してきた。
ゴーレムは両手両足を使ってゆっくりと立ち上がると、突然ジャンプをした。
ドスーーン!!と、俺たちのすぐ隣に着地したゴーレム……そして、先ほどゴーレムのいたところには、赤い葉と舌みたいな形の蔓を持った植物系のモンスターの姿があった。
――いったい、どっちに驚いたらいいんだ……?
……と、思ったところで、ゴーレムは急に金色の光に包まれた。光が消えると、そこには飼育員の少女しかいない。ゴーレムの姿は跡形もなく消え去っていた。
「『シニスター・オーキッド』。生き物の内臓しか食べないモンスター……」
「……植物なら、そもそも食べる必要がないんじゃ?」
俺は『シニスター・オーキッド』が、葉の根元にある口のように開いた『何か』まで『生き物の内蔵』を運ぶ姿を見ながら、ぼそりとつぶやいた。
「『シニスター・オーキッド』は、とにかく動き回る……光合成だけだと、栄養が全然足りない……」
『シニスター・オーキッド』は食事を終えると、地面の中から根を抜いて、どこかへ動き出そうとしていた。
だが、飼育員の少女が、柵に引っ掛けていた長いロープを引っ張ると、ロープにつながっているらしい『シニスター・オーキッド』は区画の中央へ引き寄せられ、そこから動き出すことができなくなった。
「自分が身動き取れないって知ったら、大人しくなる……」少女はロープをしっかりと柵に巻き付けそう言うと、そこについているボタンを押した。
ブーンと音がして、柵に沿うように何か透明なものが張られた。一瞬だけ、虹色に光ったのが見えた。
「危ないから、これ以上近づいちゃだめ……どうせ、バリアに弾き飛ばされると思うけど」
「……ちなみに、この『シニスター・オーキッド』というのは、どのあたりに住んでいるの?」
ジャクリンさんが、興味本位で訊ねた。
「この国の西部の乾燥地帯……」と、少女は答えた。「100体くらい暮らしているって……」
――こんなの100体もいるところなんて、ちょっと行きたくない。
「じゃあ、あたし行くから……」
少女はそう言い残し、空になったバケツを手にどこかへ行ってしまった。
まさかの大型の人型ロボット(ゴーレム)の登場……しかも、人(飼育員さん)が中に入り、操作します。かわいらしい搭乗者とは対照的に、かなりゴツいロボット(ゴーレム)です。




