055話 5月18日#01
結局何も手がかりを得られないまま、3日目に入った。
カフェで朝食を取りながら、俺は俺なりに作戦を考えていた。
そして、1つだけ思いついた。
「兵士に訊いてみたらいいんじゃね?」
街を囲う外壁を守る兵士たちなら、誰かは石の落下を目撃したはずだ。
――「カイトにしては、なかなかいいアイディアだ」
そう言ってもらえることを期待して、俺は朝食を食べ終え、店を後にした。
――というわけで、レイがいる施設の前までやって来た。
「……出てこないな」
いちおう毎日、午前中は顔を合わせよう、ということになっているはずだが。
「うーん……あんまり待ってるのも、時間がもったいないし……」
迷っている間に、どこからか足音が聞こえてきた。俺が振り返ると、誰かがこちらへ走ってくる影が見えてくる。
――デジャヴを感じる。
俺が足払いをかけると、その人は地面に倒れ「ぶしっ」と声を上げた。
「何するでござるか!……あ!!」
「……やっぱりお前か」
あの『忍者』だった。
「今日は何を盗んだんだ?」
「何も盗んでないでござる!」
しかし忍者が大事そうに手で掴んでいるものは、紛れもなくバナナだった。
「……何でそう、盗みを繰り返す?」
「待ってる人がい……って、話をしている場合ではないでござる!!」
『忍者』は素早く起き上がると、脱兎のごとく走り出し、姿を消そうと……
「見つけたぞ!」
「「捕まえろ!!」」
――3人の警官に挟みうちにされていた。
「余計なことをするでないでござる!!」
突然『忍者』は、レイがいる施設のベランダまで跳んでいき、サルのように体を使って2階のベランダに上がった。
――こいつ、めっちゃ運動神経いい。何でこんなことに使うのかわからんが。
『忍者』はさらにその上の階のベランダに手を引っ掛け、体を持ち上げて足を引っ掛けようとして……
「……バナナ、ありがとう」
突然現れたレイに、バナナを取られてしまった。
「わわわ!」
『忍者』は驚いて地面まで落下し、その際懐からいろんな物を落としまくった。
――その中に、俺たちのガイドブックもあった。
3人の警官は『忍者』を取り囲み、両腕に手錠をかけた。
「……連れて行け」
警官の中の1人が他の2人に命令して、『忍者』をどこかへ連れて行った。
「トホホ……」
3人の姿が見えなくなると、残った警官は俺にすっと頭を下げた。
「この度は逮捕のご協力、感謝いたします」
「あ、はい。どういたしまして」
「あの者は盗みを毎日のように繰り返しておりました。これ以上悪さをしないように懲らしめておきます」
それから、3階から真下を見下ろして目を丸くしているレイに向かって「バナナは果物屋に返してください」と言い、地面に落ちた忍者の持ち物を拾い上げ始めた。
レイは顔を引っ込め、しばらくして施設の玄関から出てきて、俺の隣までやって来た。
「……ドロボー?」
「ああ。なぜかこのガイドブックも盗んでた」
俺たちのガイドブックは、ちゃんと確保しておいた。
「アレ、全部?」
レイは、散らばっている物品を指さした。
「あれはあいつの盗んだものと……忍者道具は自作だろうけどな」
「ジョウシュウハン?」
「そうだな。でもこれでこの騒ぎは終わったことだし……」
「あ、どうしたの?2人ともこんなところに立って」
ジャクリンさんが現れた。ジャクリンさんは申し訳なさそうに、俺に謝罪した。
「ちょうど出ようと思ったところで電話が入ってしまって……ごめんなさいね」
「あ……いえ」
ところがその電話について、相変わらずレイの首から下がっているピエールネックレスが、こんなことを教えてくれた。
『どうやら電話の相手は新聞記者のようでして、電話の相手と『魔神の石』について話していました』
「……魔神?」
『昔いると伝えられていた、民間信仰に出てくる神様みたいな存在です。ユピテルではなぜかその魔神が持っている『石』が、ちょうど皆既日食があった時に、ここの近くへ落下したという噂があるらしく……』
「おお!」これは有力な情報だ。「……で、どこに落ちたって?」
『多くの方が『旧市街がある方』と』
「コノ施設の人、見たことアル……」
「そうか、じゃあ……」俺はニヤッと笑った。「俺、今日は旧市街を徹底的に調べてみる。午前中は、まだ行ってない西の方を散歩しよう」
「イイと思う」
「えー。なんか全然見たことのない道具ばかり……」
ジャクリンさんは警官と『忍者』の道具に気を取られていて、俺たちの話は聞いてなかった。




