053話 5月17日#04
その時のことだった。
「ドロボーーーー!!!」
誰かの叫び声が聞こえてきた。周りの人も、何事かと顔を上げ、騒然としていた。
そして、メインストリートの真ん中を走る黒い影が目に映った。
「……速っ!!」
それが黒い服を着た人間であることに気づいた時には、もうその人は視界から消えていた。
しばらくして、エプロンを着けた男性が、よろよろと歩いてきた。はあはあと荒い息を吐き、その場に崩折れてしまった。
「し、商品を盗まれた……」
その人の周りに、人だかりができ始めた。俺は呆然として、その様子を見つめていた。
「今の……何?」
少し遅めの昼食としてホットドッグを食べながら、スタンドのおばちゃんにそのことを話した。
「あー、あの『忍者事件』ね」
「に……忍者……?」
「目撃情報によると、犯人は『忍者』みたいな格好してるんだけどね……あまりに足が速くて、誰も捕まえられないの」
「何盗むんですか?」
「それは、その時によって違うわ。肉だったり、果物だったり、お金だったり、子どもの持ってるぬいぐるみだったり……」
「ぬいぐ……?」
――そんなもん盗んで、どうすんだ?
「とにかくみんなが手を焼いていて、困っているんだけどね……」
何だろう。何か、ほうっておけない気がする。
ともかく、ホットドッグを食べ終えると、俺は細い裏通りを選んで歩き出した。
「そういえば、魔法石店に訊いてみようか」
――探している石もいちおう魔法石だし、もしかしたら知っているかもしれない。
そう思い、裏通りを歩いてみた|(だいたい魔法石を扱う店は、裏通りにあることが多い。俺分析)のだが。
――ドスン!
奥のカーブから走ってきた誰かにぶつかられ、気づいたら尻もちをついていた。
「いってて……!」
「イタタタ……!」
「こんな狭い道で走っ……!!」
俺は相手の格好を見て、唖然とした。
「痛いでござる!ちゃんと前を見るでござる!」
「……『ござる』……」
――忍者だった。
黒い服、目だけ出してる顔の覆い、藁で作ったサンダル。さらに『ござる』。それは、紛れもなく漫画で見た『忍者』そのものの姿だった。
その『忍者』が、なぜかかわいらしいユリとガーベラの花束を持って、道端に転がっている。
「………………」
「な、なぜ黙るでござるか?」
「………………」
――なんすか、この状況。
「とにかく、そこをどくでござる!拙者は忙しいのでござる!」
「……ちょい待ち」
俺は、通り抜けようとする『忍者』の腕を掴んだ。
「離すでござる!」
「その花どこで手に入れた?」
「拙者は盗んでないでござる!」
「……まだ何も言ってないが」
「……盗んでないでござる!!」
『忍者』は俺の手を振り切り、曲がりくねった道を走り始めた。




