005話 5月10日#05
俺が驚きのあまり固まっているうちに、赤マントの後ろから「プシュルルルーー」と、ちょっと間の抜けた音がした。
ふと見ると、まるで空気が抜けていく風船のように『幼虫』の体が小さくなっていった。赤マントは振り返って走り寄り、両手で抱えるくらいの大きさになった『幼虫』を回収して、あっという間に俺の元に戻ってきた。
「私たちを、家に泊めてください」赤マントはそう言って、再び俺に向かって拝みだした。
「えーっと……」俺は戸惑って頭を掻いた。「それはちょっと、困るんだけど……」
「どうかお願いします」
「……さすがに、見知らぬ女性を俺の家に泊めるのは……」
「私の名前はレイです。泊めてください」
「いや、そういう意味じゃなくてだな……」
「……泊めてください!」
それから時間が過ぎ、本物の夜が迫ってきた。『幼虫』の姿が消えて騒ぎが収まると、人々は破壊し尽くされた街並みを見て、呆然としていた。
赤マント改めレイが、俺の家に泊まろうとしている理由はすぐにわかった。未だ混乱する街の中では宿を探すのも難しいし、何より|(さっきまでより小さくなったとはいえ)かなり大きな『幼虫』を抱えて街を歩くのは、あまりに不審だし、危険すぎる。
だからといって、たまたまその場に居合わせただけの男の家に泊まろうとするのはいかがなものか……。
「そもそも、あんた一体何者?」俺は、どこまでもついてくるレイに訊ねた。「あんな強そうな魔法、初めて見たんだけど……」
「んー、魔法使い?」レイはこてんと首を傾げた。「あ、でも剣も使ってるから、剣士なのかな?」
「そんなこと訊かれても……」
「……あ、剣術習ってないから、やっぱり魔法使いでいいや」
俺は、ズッコケた。
「それにしてもいい街だよな」何だか話題も逸らされてしまった。「オレンジ色の建物にオレンジ色の夕日!なかなか映えてるんじゃないか?」
――確かに、自慢できるぐらいきれいな街並みなんだけどさ。
「……レイって、もしかして旅行者?」
「まあ、そうだな」レイは頷いた。「私はさすらいの旅人だ」
「『さすらい』……?」
「おう!」レイは胸を張って言った。「だから、お金も食料も寝る場所も持ってない!」
「威張るなよ」
俺はふうと息を吐き、立ち止まって、レイの方を振り返った。
「それじゃあ、わかったから俺ん家に泊めてやるよ。その代わり、」
俺は、レイが抱えている『幼虫』を指さした。
「あんたとその『幼虫』について、詳しく説明してもらおうじゃないか!」
「ラジャー!」レイは、俺に向かってなぜか敬礼をした。
「お前……ヘンな奴だな……」
「ワタシは、通りすがりのタダの魔法使いデス」
「そんなわけ……まあ、いいけどさ……」
――とりあえず犯罪者には見えないから、大丈夫……なのだろうか?




