036話 5月14日#04
ロボットに手渡された紙には、詳しい仕事の内容や場所、かかる時間、給料、仕事をする際の注意点などが書かれていた。レイが手にしている仕事と比べると、やはり『果樹園の警備』の方が稼ぎがいい。
俺はレイの方を向いた。
「なあ。レイはどっちの仕事がい……」
「こっち!」迷うことなく、レイは『バルの手伝い』の方を指さした。
「ちなみに、何で?」
「早く寝られるから」
――ああ、そうかい。
「あのさ、」俺は再びロボットに話しかけた。「この『果樹園』の仕事、明日もあったりする?」
『モチロン、ありマス!』ロボットは、もう1枚紙を取り出した。『今後1か月くらいは、毎日募集してマスね!』
「じゃあ、今日は『バル』の仕事をして、明日この『果樹園』の仕事をする!」
「私は明日も『バル』で!」
『ワタクシは、両日とも『郵便』の仕事で問題ないです!』
『お決まりのようデスね!』ロボットは、奥にあるカウンターを手で指した。『ご登録の作業をいたしマスので、あちらへ移動していただいてもよろしいデショウか?』
こうして、俺とレイは『林檎飴』という名前のバルまでやって来た――何でもいいけど、名前の由来が知りたい。
なかなかいい雰囲気の店で、仕事がなくてもここに来たくなるような、温かみのある店内だった。まだ明るい時間なのでよくわからないが、照明がわりと多くて、夜でも店内は明るそうだ。
「すみませーん!仕事をしに来たんですけどー!」
「『ありさん』の紹介で、こちらで働くことになりました!」
レイのストレートすぎる挨拶に苦笑いしながら、俺は『紹介状』を取り出した。
「おお!待ってたよ!」店の奥で作業をしていた男性が、こちらにやって来た。「これはまた、元気そうな若者がやって来たね!」
「俺はカイトで、こっちがレイです」俺は自己紹介をした。「レイは明日もお世話になります。よろしくお願いします!」
「お願いします!」
「うんうん、なるほどね!」男性は俺から紹介状を受け取り、内容を確認した。「私の名前は『トミィ』。ここの店長をやってる」
トミィさんは、俺とレイと握手をすると、店の奥の方を指さした。
「早速、あそこにある掃除用具で、2人で手分けして店内を掃除してくれるかい?」
「「了解です!」」
それから、俺とレイは布巾を手に持ち、手分けして店のテーブルを拭き始めた。
その様子を確認したトミィさんは、奥へと引っ込んでしまった。
「ん〜!労働って楽しいな〜!」
「……あんまり調子に乗って、物を壊すなよ」俺は吹き出しそうになるのをこらえながら言った。
「でも、こんなに簡単に仕事できるなら、もっと早くやればよかったのかな……?」
悩み始めるレイを見て、俺は常々疑問に思っていたことを口にした。
「レイって、イェリナ国民のわりには一般常識知らなすぎじゃね?」
「まあ、修行してたからなあ」レイはうーんと首を傾げた。
「『修行』って、星霊使いの?」
「うん」
「何年くらい?」
「12年間」
「……長っ!」
「4歳の時から始めて、16になる誕生日の直前で『試験』に合格した」
「『試験』があるんかい!」
「うん」レイは天井を見上げた。「その後2年間くらい、『さすらいの旅人』をやって……」
「『さまよう旅人』の間違いだよな?」
「……で、気づいたら『ケレス』にやって来ていた」
「いつ頃から?」
「ん〜……よくわかんない」
「……お前、時間の感覚もないのか……?」
――そんなんで、よく今まで生きてこれたな。
『星霊使いになるための修行』は、全員がほとんど一斉に始め、最終試験に合格すると、『星霊使い』として認められるようになります。
もし試験で3回不合格になったら、その星座の星霊使いにはなれず、地球へ強制送還されます。その星霊使いの座は、次の世代になるまで空席のままになります。




