035話 5月14日#03
「……で、着いたけど、」レイはあたりをきょろきょろと見渡した。「これからどこ行くの?」
時刻はまだ午後3時くらい。宿を探すには早すぎる。
「……じゃあ、早速『バイト』やってみるか!」
『おお!』ピエール33世は黄色く光った。『楽しそう!』
「……で、どこ行くんだ?」
レイは首を傾げていた。
――実は目的の場所はどこにあるか、既に上空から確認してあった。
「ほら、ここ」
『「おおー!」』レイとピエール33世は、同時に歓声を上げた。
――うーん。思ってたのと反応違うな。
その建物|(?)は、こんもりとした小さな丘みたいな外見だった。その丘の周囲を、機械仕掛けの蟻の人形が10匹くらいぐるぐる回っている。
丘には横に穴が掘ってあって、奥に扉があった。その手前に『ありさんです』と書かれたプレートを首|(?)からぶら下げた蟻の人形が、二本脚で立っていた。
「……『ありさん』?」
「正式名称は『ありさんは働き者』。略して『ありさん』」
『ここはどういった施設なんですか?』ピエール33世は緑色に光った。
「簡単に言うと、バイトの紹介をしてくれるところ」俺は少し得意になって説明した。「建物は、何というか……『印象的』なんだが、仕事の紹介はちゃんとしてくれる」
「こんな場所があったのか!」
「やっぱり、知らなかったんだな」
――金欠と聞いた時点でそうだろうとは思っていたが。
『カイトさんが知ってるってことは、どこの街にもあるんですか?』
「全部の街にあるかどうかは知らないが、少なくともケレスには5か所くらいある」
たぶんウラヌスにもあったとは思うが、都市の構造が他と違いすぎて、見つけることができなかった。
「ほー」レイはとことこ歩き出した。「じゃ、中入ろー」
間の抜けたレイの号令に苦笑いして、俺はレイの後に続いた。
中は、木のぬくもりが感じられる、こざっぱりとして居心地のいい造りになっていた。
あちこちで、2本足で立っている蟻に台をつけたような形のロボットが、木の床の上でガタゴトと動く様子が見られた。ロボットたちはそれぞれバイトの希望者と話をしており、時折体にあるスリットから紙を取り出し、話し相手に内容を見せていた。
『オシゴトをお探しデスか?』俺たちのところにも、早速1台のロボットがやって来た。
「今日、これからサクッとできる仕事はあるか?」
『3時間くらいまででできるオシゴトということデスか?』
「ああ。その仕事を、俺とレイと……」
俺はじっと、ピエール33世を見つめた。
『えーっと、機械のワタクシでも仕事できます?』
『機械専門のオシゴトがありマスよ』
「……じゃあ、このピエール33世も含めて3人で働くから、良さげな仕事を探してほしい」
俺の言葉を聞くと、ロボットは前脚を上げて敬礼をした。
『了解デス!ちょっとお待ちクダサイね!』
――カタカタカタカタ……
ロボットは体を動かすのを止めて、しばらく内部で機械的な音を鳴らしていた。
『見つかりマシたー!』
ロボットはそう言うと、お腹から出てきた3枚の紙を、俺とレイとピエール33世それぞれに手渡した。
「『果樹園の夜の警備』……」
「『バルの開店前の準備の手伝い』……」
『『郵便の仕分け作業』……』
『いかがデショウ?ご質問、ご不満があれば、何なりとお申し付けクダサイ』
「あのさ……」俺は早速質問をした。「『果樹園の警備』って言っても、まだ実は成ってないだろ?誰が何をするんだ?」
『ソレは人間のことじゃありマセン』ロボットは、こちらに顔を向けた。『せっかく伸びてきた若い葉っぱを、わざわざ果樹園までやって来て食べようとするモンスターがいマシて、農家サンたちの悩みのタネになっていマス』
「じゃあ、そのモンスターがいないか見回りをするってこと?」
『おっしゃるとおりデス。そのオシゴトは夜までかかってしまいマスので、お隣さんに渡した『バルの手伝い』をしていただいても構いマセンよ!』
「そうか……うーん、どうしよう……?」




