034話 5月14日#02
ピエール号はサトゥルヌスに向かって、列車の線路の上を進んでいた。
「う〜ん……」レイは唸りながら、俺の手元を見つめた。俺の手には、2枚のカードがある。
しばらく悩んだ後、レイは左側のカードを手に取った。
「な……ジョーカーじゃないか!」
「はっはっはっ!」俺は、レイがカードを混ぜないうちに、ジョーカーじゃない方を手に取った。「俺の勝ち!」
「……あ!」
『カイトさん、それは卑怯な気がします』ピエール号から呆れたような声が聞こえてきた。『それに……何でババ抜き?』
「ただのヒマつぶし」
俺はうーんと伸びをしてから、テーブルの上の乱雑に積まれたカードをかき集めた。
「それにしても……」レイは窓を振り返った。「全然出てこないな、モンスター」
「出てこないに越したことはないが」
『きっと、このあたりは人が住んでるから少ないんですよ。もっと山の方にいけば、たぶん会えると思いますよ』
「……出てこないに越したことはないが」
レイは、ソファの上に投げだされていたガイドブックを手にとって、何かを探し始めた。
「次行く街って……『サトゥルヌス』だっけ?」
「ああ」
「農業と……牧畜の街?」レイは首を傾げた。「そんなところに、星霊使いがいるのか?」
『……いちおう、『やぎ座の星霊使い』さんの故郷です』
「農業の、ねえ」俺はカードを切りながらぼやいた。「バイトも農業関係が多いんかな?」
『……カイトさん、意外とお金のことばかり考えてますね』
「貧乏人の生活の知恵だ。ほっといてくれ」
「あれ?鉄道は通っているけど、大都市になるまで発展しなかったんだな」レイは不思議そうにつぶやいた。
『そうですね。果樹園が元から多かったからですかね』
「特産は、ブドウ、オリーブ、モモ、リンゴ、プラム……羊や乳牛を育ててる人もいるって」
「ふーん」俺は窓の外を眺めた。「何か美味いもんが食えるかな?」
『そうだったらいいですね!ワタクシは神様だから食べませんけど!』
「そりゃ、わかってる」
ピエール号は、平穏な晴れた空の下で、順調に航行し続けていた。
眼下には、しばらく小さな建物が小規模に密集しているのが見えていたが、やがて建物はなくなり、代わりに木が整然と並んだ果樹園が広がるようになった。実はまだ成っていないようだが、葉っぱは生い茂っていて、元気に育っていることが窺えた。
『あ。見えてきましたよ、サトゥルヌスの中心街が!』
俺は甲板に出て、街の様子を眺めた。
「……お?」
農業中心だと聞いていたので、勝手に小さい街なんだろうと思っていたが、わりと大きくて賑わっていた。手前に、円筒形の飛空艇発着場が見えていたが、同じく円筒形のケレスのポートよりちょっと低いくらいで、そこそこ大きそうだった。
『ポートに向かいますよ!しっかり掴まっててください!』
ピエール号はそう言うと、右へ大きく舵を切った。俺は手すりに掴まりながら、ここはどんな街なんだろうと期待を寄せていた。




