5月13日#10〜センタービルの屋上へ〜
……うーん。
私としては、このまま次の街へ行ってもいい気がするんだけどなー。
でも、カイトが「ウラヌスでレイがどんな戦いをしたのか、詳しく知りたい」とか言うし……
うん。仕方ないから、ちょっと書いてみる。めんどくさくて途中で放り出すかもしれないけど。
私がカイトをセンタービルの屋上まで打ち上げた直後のこと。
スターリアは、私ではなくカイトを追って、魔法の階段を一歩ずつ踏んで駆け上り始めた。
私が下から追いかけていると、スターリアは今まで使ったことのない魔法を使ってきた。
「『ノイズ・シャットアウト』!!」
すると、私の頭上に『見えない壁』みたいなものが現れ、私は思いっきり頭突きをしてしまった。
「イタタタ……」
私は『壁』を大きく回り込んで、今度はスターリアの横あたりを攻めて込んでみた。
「『エレクトロウェイブ』!!」
「『ノイズ・シャットアウト』!!」
同じ魔法で防がれてしまった。
――だが、ここから『エレクトロウェイブ』が本領を発揮する。
『エレクトロウェイブ』は、繰り返し押し寄せる『見えない波』で『見えない壁』を何度も攻撃し、真ん中に大きな穴を開けた。
「ぐっ!」スターリアは、『壁』を通り抜けてきた『エレクトロウェイブ』を浴びて、かなり苦しんでいた――すごく熱くなるよな。私も修行の中で何度も浴びたから知ってるけど。
でも、私が無視をして、さらに高く飛ぼうとした時、スターリアはジャンプして私の足首に掴まった。同時に「てめえを先には行かせない!」と叫んだ。
たぶん、この人もわかっている――あのビルの屋上に、『石』があることを。
そしてどうやら、私がカイトを投げ飛ばしたことを防げなかったことに、かなりの怒りを感じているみたいだった。
「てめえは邪魔だ、消えろ」
一瞬だけ、上空に大きな水瓶が逆さまになって浮いているのが見えた――幻覚じゃない、本当にあったんだぞ。
たぶん、ずっとそこにあったんだけど、透明だったから誰も気づかなかったんだろう。
その水瓶から水、ではなく、轟音が落ちてきて、私の頭の上に降り注いだ。
「……あ」
「『フィーネクラッシュ』!!」
私は、はるか下方にあった地面へとあっという間に吹き飛ばされ、強く叩きつけられた。
「うぎー!!いったあーーい!!」
私は、崩壊した坑道の中にいた。周りは土と岩だらけ。こんなところまで落ちて大丈夫なのは、魔法で耐久力を上げているから。
――でも痛い。全身あちこちで血がにじんでいるし。
私は上を見上げた。空で明るい星が瞬いている。
私は飛んで近くの岩の上に足をかけ、勢いよく空へと飛び上がった。何かが爆発するような音が、屋上から聞こえてきた。
スターリアは、既に屋上までたどり着いていて、エラとかいう少女と戦っていた。
……というのは、少し現状と異なるか。スターリアが一方的にエラに攻撃して、エラは必死に『ノイズ・シャットアウト』で防いでいるだけだった。
たぶん『石』の効果は、その魔法を使えるようにするだけなんだろう。あと、エラ自身は魔法が使えない。
このまま見てるのもなんだし、騒いでいた観客が全員階下へ逃げたところを確認してから、私は魔法を使った。
「『ミラージブラスト』!」
夜だからわかりにくいけど、陽炎がゆらゆら揺れて、地面から熱風が吹き上がる魔法だ。とりあえず観客席があちこちへ吹っ飛んで、2人の戦いを中断させることに成功した。
「……あれ食らってまだ動けんのか」スターリアはこちらを見て、ちっと舌を鳴らした。「つーか、あの『変態石頭』より立ち直るのが早え」
「……ん?」誰それ?
「やっぱり、死ぬのはてめえが先だ!」
スターリアの攻撃ってどれもめちゃくちゃ早いから、カウンター攻撃を使う隙がない……んだけどこれは、カウンターどころか避けるのも難しかった。
「『モレンド』!!」
スターリアの足元から、毒々しい紫色の霧があっという間に周囲に広がる。
私は少し吸ってしまい……その霧の効果を悟った。
「……精神的活力と筋力を吸い取る……!?」
実際私も一瞬だけ「もう、何もかも嫌だ。ここから逃げたい」という考えがちらつき、同時に全身の力が抜け、膝がガクンと落ちた。
だがエラと、私の後ろで伸びているカイト|(今見つけた)なら、一瞬では済まない――心臓の筋肉が動かなくなったらどうするんだ?
だから私は自分を奮い立たせ、霧を全て吹き飛ばす大技を使った。
「……『インフェルノ』!!」
屋上全体が、赤黒い業火に包まれる。霧も含め、その場にあったもの全てが焼き払われる。
飛び散る火の粉を見ながら、私はぼんやりとつぶやいた。
「……怒られるかな……?」
ようやく火が消えた後、最初に私の目に入ってきたのは、床に開いた大穴だった。
あとそこらじゅうで、いろんな物が燃えていた。椅子とか、テントとか、ステージの端っことか。
「……やっぱり怒られる」
「何あれ……ほんとに魔法なの……?」
よく見ると、ステージ上にまだ立っているエラが、こちらを向いて震え上がっていた。怖がらせてしまったようだ。
何となく、申し訳ない。
「くっ……!!」
スターリアは、顔が煤で真っ黒になり、全身にやけどや傷ができて、満身創痍だった。
でも、また立ちあがった。ギターらしき楽器は、もう手元に残っていない。
「てめえは……マジで……ムカつく」スターリアはぎっと私を睨みつけた。「『星霊使い』の中で……一番ムカつく」
スターリアは腕を広げた。何をするつもりなんだろう?と見ていると、驚いたことに腕の中に白い光が現れ、それがギターの形に変化した。私が目を丸くしているうちに、スターリアの全身の傷も癒えていった。
「……えー。そんなのアリー?」
スターリアはギターのストラップを肩にかけると、私に向かってこう言った。
「てめえはアタシみたいに『再生』できねえだろ?……だから、最後に勝つのはアタシだ!」
「……えー」
スターリアは再び何か魔法を使おうと、ギターを構えた。
仕方ないので、私はスターリアに向かっていき、迎撃の準備をした。
この後は……ま、いいか。スターリアとの激闘の末、爆発でぶっ飛ばしただけだから。うん。




