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月と星座と剣士の旅〜魔法が苦手な俺が、魔法で神様を救う話〜  作者: く~が~
ウラヌス編

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032話 5月14日#01

 次の日の朝のこと。


 俺たちは、ホテルで朝食を摂っていた。



 「あー、こんな豪華な食事もこれで最後なのかと思うと、ちょっと残念だな」



 俺が独り言をつぶやいていると、ピエール33世は『ですよねー』と相槌を打った|(早朝に回復して、またロボットに変身できるようになっていた)。



 「しかし、思えば……我々はただ『石』が欲しかっただけなのに、こんな大騒動になるなんてな」



 レイの言うとおりだ。



 「でも、だからって何かが変わったわけでもないだろうけど」


 『ええ』ピエール33世は弱々しく紫色に光った。『いちおう、この街の鉱脈で働く労働者たちを少しだけ解放したことになりますが、さすがにワタクシたちだけで、同じような境遇の人を全員助けることはできないですよね』


 「確かにそれは、俺たちでできることじゃねえな」俺はぼんやりと天井を見つめた。「街全体の体質が変わる必要がある。特にあの領主と……」


 「……パパがどうしたの?」



 その声を聞いて、俺はビクッと反応してしまった。



 「……エラ?」



 俺たちの囲むテーブルのそばに、エラがいた。今日は、清楚な緑色のワンピースを着ている。



 「いつの間に……」


 「あなたたち、もう行っちゃうのね」エラは悲しそうに言った。「でも、ひと言あなたたちに言いたいことがあって……」


 「な、何?」


 「パパがね、あの下層の労働者たちの待遇をよくする政策をとりたいって言ったの」



 それを聞いて、俺たちは顔を見合わせた。



 「昨日、パパは初めてウラヌスの地面に下りたんだって。それで、自分のいた世界と全然違うところだって、驚いたみたいで……」



 エラはため息をついた。



 「私もそう。あなたたちに助けられた人たちと初めて話をして……あの看守長がどんなひどいことをしてたかとか、自分たちの仕事がどんなに過酷なのかとか……直接、パパや私に話してくれて」



 エラは苦笑いをして、話を続けた。



 「私もパパも、この街をよくしようっていう行動力が足りなかった。だから、カイトがさっき言ってた『街全体の体質』を変えるには、私たちが行動力を示す必要があるんだ……て、今更気づいて」


 「それは……んー、そうか……」俺は何を言ったらいいのかわからず、もごもごとつぶやいた。


 「……だからね、」エラは、顔をあげた。「あなたがまたここに来る時には、ウラヌスは変わってるはず!私、頑張るから!」



 俺は目を見張った。



 「それは朗報だな」



 それから俺は、思わずニヤッと笑った。



 「変わったウラヌス……楽しみにしているからな」


 「ありがとう……じゃあ、またね」



 エラは俺の肩を叩くと、すぐ近くにいた男性|(たぶんSP)と共に姿を消した。



 『あー。何かよかったんじゃないですか?』ピエール33世がぽつりと言った。


 「意外と、これがきっかけになるのかもしれないな」レイも首を傾げながら言った。


 「じゃあ、とりあえず一件落着ということで……」



 そこで俺は、はっと気づいた。



 「……待てよ。1つ問題があるんだった」


 『え?何ですか?』


 「金がねえ」


 「え?」


 『借りた部屋が1部屋だけで、しかも割引があったのに?』



 ――『月の神の加護』なのか何なのか知らないが、俺たちは抽選に当たって宿泊費が半額になっていた。



 「ああ」俺は椅子の背もたれにもたれかかった。「次の街では金策しないと」


 「……懐事情が寒いな」


 「金を全く持ってなかった奴が言うな」



 その後、俺たちは転送球(トランスボール)に乗って飛空艇発着場(ポート)まで行き、ピエール号に乗り、次の街『サトゥルヌス』へと出発した。


 ウラヌスでの体験は、いろいろ考えさせられることばかりだった。



 ――でも、きっとエラたちが、あの街に明るい未来をもたらしてくれる。



 そう願いながら、俺たちは遠のいていく黒く高い建物の姿を見送っていた。






 『それにしても、(見てませんでしたけど)カイトさんカッコよかったですよね!エラさんの力を信じて、ビルから飛び降りて避難したとか……!』


 「言っとくけど、あれめっっっっちゃ怖かったんだぞ!もっと怖がってたエラがいたから、冷静になれたけど!」


 「ほお。そのくらい私は怖くないけど」


 「そりゃ飛べるからな!――それよりレイ、あの『スターリア』って女はどうした?」


 「遠くへぶっ飛ばしたから、今どうしてるかはわからん」


 「そんな、乱暴な……」


 「大丈夫。星霊使いはこのくらいじゃ死なない――そういえば、ピエール号」


 『はい、何でしょう?』


 「……腹減った。何か作ってくれ」


 『了解です!』


 「神様が人間に料理を作ってやってるって、どんな世界だよ、ここは……?」

この街のテーマは『貧富の格差』です。エラが父の後を継ぎ、労働者の待遇改善に取り組むのは、まだまだ先の話です。未来のエラは、大胆な改革案を打ち出すようです。

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