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月と星座と剣士の旅〜魔法が苦手な俺が、魔法で神様を救う話〜  作者: く~が~
ウラヌス編

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030話 5月13日#08

 しばらく目の端にチカチカ光が見え、数分後にようやく意識が戻った。



 「ぐはっ!」俺はゴロンと転がった。「一体、何が起こったんだ……?」



 俺はボンヤリとした頭のままで何とか体をひねり、上体を起こした。


 すぐそこに、レイがいた。



 「あ、レイ……あの……」



 ――と思って声をかけたが、無視されどこかへ飛んでいってしまった。



 物陰から這い出すと、そこにはレイ、エラ、スターリアの女3人による地獄絵図のような戦いがあった。



 「……やっぱりエラは、あの『石』の事を知ってたんだな……」



 ――しかし、3人が使っているのが特殊な魔法とはいえ、舞台がここまでめちゃくちゃになるか……?



 床の中央には、ゾウも落ちるくらい大きな穴が開いている。そこら中に観客用の椅子が散乱している。あちこちで、火の手が上がっている。そして……



 「『クリムゾンブレス』!」


 「『グルーヴランス』!」


 「『ノイズ・シャットアウト』!」



 ――魔法同士がぶつかり合い、そこらじゅうで爆発が起きていた。



 「この状況……どうしたら……?」



 ……えっと、まずは誰か1人を戦いから脱落させよう。


 一番頑張ってほしいのは、レイだ。他の2人を行動不能にしてくれれば、邪魔されずにエラの『石』を奪い取ることができる|(って、何か悪者みたいな言い方だ)。


 だがスターリアは、生身で魔法が使える。俺の手で脱落させるのは難しそうだ。


 俺は、戦いの様子をよく観察した。確かに3人の魔法は同じくらいの強さだが、やはりエラの魔法の制御の仕方は、他の2人よりもかなり拙い。付け焼き刃で魔法を使っているのがバレバレだ。



 「……やっぱり、1択か」



 俺はため息をつき、背後からエラに忍び寄った。戦いに集中しているせいか、こちらに気づく様子は全くない。



 「エラ……お前、わかってるのか?」


 「カイト……!?」



 エラがこちらを振り返った瞬間、近くで小さな爆発が起きた。エラは「きゃ!」と叫んで転がった。



 「邪魔しないで!」


 「……どうせお前じゃ、あの2人には勝てねえよ」俺はしゃがんで、エラと目を合わせた。「だから、取り引きしようぜ」


 「な……何言ってるか、全然わかんないよ!」



 俺は、目線を上げ、あたりを見渡した。



 「……この様子じゃ、階段使うのも危ねえだろうな」


 「階段?」


 「ここから逃げようって話してるんだ――お前だって、ここで死ぬのは嫌だろ?」


 「そうだけど!でも『逃げる』なんて……」


 「別に逃げたって、誰も文句言わねえよ。俺がここから連れ出すから、代わりにその『石』を俺にくれ」


 「イヤって言ってるでしょ!せっかく手に入れたのに……!」


 「……まあ、その『石』が欲しい気持ちは、俺にもわかるが」


 「わかるって……え?まさかカイトも?」



 エラは目を大きく見開いた。



 「ああ。魔法が使えねえ」俺はふうと息を吐いた。「しばらく『闘技士(グラディアトル)』として戦ってきたが、魔術師に勝ったことはほとんどないし」


 「じゃあ、あなたがこの『石』を欲しがっているのって……?」


 「勘違いするな。どうせその『石』は、俺には使えないってわかってるし……別の理由で、それが必要なんだよ」


 「それは何?」


 「ここでは理由は言えねえ」俺は首を振った。「だが、お前がその『石』を持ってて、いいことは何もない」


 「どうして?」エラは戸惑った顔をした。


 「あの2人、」俺はレイとスターリアを指さした。「言ってみれば、魔法のエキスパートだ。俺が知ってる中でも、1、2を争う強い魔術師だ」



 それから、俺はエラの『石』を指さした。



 「あの2人には、その『石』が必要なはっきりとした理由がある。例えお前がこの場をやり過ごせても、あの2人は地の果てまでお前を追いかけてくる」



 エラは震えていた――たぶん、この状況で『石』を手放すことが、怖いんだろう。



 「じゃあ、私は……」


 「例え魔法が使えなくても、俺たちには俺たちなりの戦い方がある」俺は立ち上がりながら言った。「逃げられる時は、逃げればいい。魔術師の仲間を呼ぶのも1つの手だ。俺たち自身が魔法を使えなくても、やりようはある」


 「………………」


 「な?」


 「…………そうね」



 俺はエラに手を差し出した。エラはためらっていたが、やがて俺の手のひらの上に自分の手を乗せた。

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