003話 5月10日#03
後ろを振り返ると、すぐそこに誰かがじっと佇んでいた。
「うおお!!」俺は驚いて叫び声をあげた。「びっくりした。あんたいつから……」
その人は赤いフード付きマントにくるまっていて、顔すらよく見えなかった。しかも、その人は俺を無視して、足元に落ちている緑色の石を手に取った。
「……『リブラ』か」
赤マントはそうつぶやいた――と思ったら、その石を俺に手渡してきた。
「持ってて」
「……へ?」
目を丸くする俺をよそに、赤マントは通りの方へとてくてく歩いていった。
「そっち行ったら、危ないぞ?」
――その時、『幼虫』が動き出した。通りを突き進んで、街の奥の方へ入っていこうとする。
その目の前に、赤マントは堂々と立ち止まった。
『幼虫』は上体を反らし、赤マントの上から巨体を叩きつけた。
「ちょっと……!!」
何をしようと思ったのか自分でもわからないが、俺は咄嗟に赤マントの方へ行こうとした。
だが、その途中でぴたりと足が止まった。
――赤マントは、宙に浮いていた。
「え……」
十数年生きてきて、空を飛べる人間は初めて見た――いや、確かに飛空艇とかドローン型ロボットとか、この世に飛べるものはたくさんあるんだけどさ。
生身の人間が何も持たずに飛べるなんて、聞いたことがない。
「ちょ、え?うええ???」
赤マントは、どこからともなく大きな剣を取り出した。
そして、後ろに下がり「キイイイイ!!!」と甲高い音をあげた『幼虫』の頭を、剣の腹で思いっきり叩きつけた。
――ズドーーーーーーン!!!
『幼虫』が、地面に沈んだ。
「つ、強っ!」
『幼虫』は、頭だけで飛空艇1艘と同じくらいの大きさはありそうなのに、赤マントは剣で何度か殴りつけ、確実にダメージを与えていた。
――よくよく見ると、その剣の大きさもなかなかだ……刃だけで、赤マントの身長や横幅と同じくらいの大きさがある。
「あんなの、ありかよ……」
もはや、俺の知っているモンスターとの戦いの域を、完全に超えていた。
『幼虫』は、後ろに下がって『C』の字みたいに体を曲げた。先程光線を吐いたときと同じ姿勢だ。
「おい!気をつけろ!」俺は赤マントに向かって叫んだ。「あいつ、たぶん光線を……」
赤マントは、俺の忠告を聞いてるのか聞いてないのか、剣を目の前に構えた。そしてその剣に向かって、『幼虫』は光線を吐いた。
俺は眩しくて目を瞑った。再び目を開けると、そこには……
――巨大な火の球があった。
「……は?」
「カウンター……」赤マントの声がはっきりと聞こえてきた。「……『イグニスフィア』!!!」
火の球は『幼虫』に向かって勢いよく飛んでいき、『幼虫』に当たった瞬間、大爆発を起こした。
「ギイイイイイイィイ!!!!!」
『幼虫』の叫び声が聞こえる。
「な、何だよあれ……」俺はその場で凍りついていた。「あれって、ホントに魔法なのか……?」




