029話 5月13日#07
その後、どうやら全員建物の外へと避難できたようだ。
――と、喜べる状況でもなかった。俺はレイたちが戦っている部屋まで戻ってきて、唖然としてしまった。
天井が曲がり、円筒状の部屋が変形している。
「『ミラージブラスト』!」
レイが渦を巻く熱風を作り出して、壁に開いている大穴を更に広げていた。
「おいおいおい!」俺は慌ててピエール33世の元へ走っていった。「大丈夫か、もう少し耐えられそうか!?」
『そ、そろそろ限界です……』ピエール33世は、弱々しく光っていた。『あー、変身が解けそう……』
ポンッという音と共に煙に包まれ、ピエール33世は『幼虫』の姿に戻ってしまった。
「これはマズい……」俺は月の神を抱えた。「さっさと外に出るぞ!」
しかし、数歩も動かないうちに、ギシギシと嫌な音が聞こえてきた。
やがて天井が、ほとんど真っ二つにぐにゃりと曲がった。
「ま、間に合わ……!!」
突然、ふわっと体が浮き上がる感覚がした。はっと気づくと、俺と月の神が宙に浮かんでいる。
――というか、吹っ飛んでいる。
「ぐわあああああああ!!!」上空へ打ち上げられたような形になって、俺は月の神を体で包むように抱きしめた。
――あれ。意外と温かくて気持ちいい。
やがて俺は弧を描いて落下していき、何かの布の上にドサリと落ちた。
しばらく周囲が布に覆われていて、他は何も見えなかった。ばたばた暴れているうちに突然ごろんと転がり、平らな木の床の上に落ちた。
「いってええ~~……」俺は四つん這いのまま、周囲を見渡した。「ここは……」
よくわからないが、俺が落ちた場所は暗く、奥の方は眩しいくらいに明るかった。そしてその眩しいところから、誰かがこちらに近づいてくる。
咄嗟に、俺は月の神を布で包んで隠した。
「そこにいるの……もしかしてカイト……?」
聞き覚えのある声に、俺ははっとした。
「エラ……?」
「何があったの?近くの建物からすごい音が聞こえてきたけど……」
相手が近くまで寄ってきて、俺はようやくエラの姿を捉えた。今回は青いドレスを着ていて……相変わらず、あの赤紫の宝石のネックレスは着けていた。
「エラ……いてっ……」
「大丈夫?」
エラは俺の頭に触ろうとしたが、俺はその手をはねのけた。エラは驚いた顔をした。
「俺のことはいい。それより……そのネックレス、俺に渡してくれ」
「え?」
「お前が持ってていいものじゃない。それは……」
「……イヤ」
急にエラは後退した。
「この『石』は、あなたに渡せない……」
その時、どこかから人のざわめく声が聞こえてきた。それを聞いて、「今夜センタービルの屋上で、エラ・リミド氏の歌が聞けるコンサートがある」と宣伝していた人がいたことを思い出した。
「そうか。コンサート中か……」
俺は突然駆け出し、ありったけの大きな声で叫んだ。
「全員逃げろ!ここにいると、戦いに巻き込まれるぞ!!」
「『戦い』?」エラは眉をひそめた。「それってな……!?」
ズドーーーーン!!!!
ひょいとジャンプして、スターリアが屋上を囲む柵の外から姿を現した。人々が騒然としているが、スターリアは完全に無視していた。
「いた!エラだ!」スターリアはエラを指さした。
「……ちっ!」エラは舌打ちをすると、その場から逃げようと駆け出して……
「だから、お前にはまだ用があるんだ!」俺に腕を掴まれた。
「離して……!」
「その『石』をくれれば、離してやる!」
するとエラは、今まで見せなかった鬼のような形相で言った。
「この『石』はあたしのもの!カイトにだって、渡さないわ!!」
突然、バーーーン!!と大きな音がした。俺は、何がなんだかよくわからないうちに、ふっ飛ばされて何か硬いものに打ちつけられ、意識を失った。




