027話 5月13日#05
「やりすぎだぞ、レイ!!!」
俺は、通路の先の張り出したところにある手すりまで走りより、レイに向かって怒鳴った。
「……すまん」レイはぽりぽり頭を掻いた。「あまりに魔法の数が多かったんで、反射的に」
今回の爆発で壁の一部が消えてなくなり、建物の天井からいろんなものが落ちてきていた。
「お前、あいつの仲間か……ぐはっ!」
他の看守に命令していたリーダーらしき看守が、俺を捕まえようと近寄ってきたが、俺は剣の石突で腹を殴り、床に沈めた。
「早く!次の攻撃だ!!」
「『攻撃』って、あんな化け物に?」
「いいから俺の言う事を聞け!!」
下の階の看守たちが大騒ぎをしている。
しかしその中で、こんなことを怒鳴っている連中もいた。
「貴様ら!サボるんじゃねえ!!」
「とっとと石を工場まで運びやがれ!!」
それは、主に1階にいる看守が発した言葉だった。その怒鳴り声を聞き、労働者たちが、のろのろと作業を再開し始めた。
「いや、それはないだろ」
俺がそうつぶやいていると、すぐ横にピエール33世が現れた。
『あの鉄格子の鍵はぶっ壊しました!何とか説得して、みんな奥にある非常階段から下へ避難しています!』
「やるな、月の神」
『えへっ!』ピエール33世はピンク色に光った。
「今の状況、見ればわかるよな?」
『ええ、大体は』
「たぶんレイは、騒ぎを起こして、ここの責任者を引きずり出そうとしている」
『……よくわかりますね』
「だって、レイは自分から攻撃してないからな」
その時、再び爆発が起きた。俺はその場で屈んだ。
『それでも結構派手ですけど』ピエール33世はぼそっとつぶやいた。
「あー、そうだな」俺は天井と壁の様子を観察した。「……とにかく、俺は1階にいる人たちを逃がすから、ピエール33世は他の階にも人がいないかチェックしてくれるか?」
『了解です!』
ピエール33世が下の階へ下りたのを見てから、俺は近くに梯子を見つけて、その梯子を使って下の階へ下りていった。
「おい!あいつやっぱり強いぞ!!」
「俺たちじゃ、手に負えねえ!」
「看守長を呼べ!!早く!!」
看守たちのその言葉を聞いたレイは、くるっとその声が聞こえてきた方を振り向いた。
「今がチャンスだ!一斉に攻撃しろ!!」
また数え切れないほどの魔法陣が現れる。
――しかしその時、誰かの大きな声が聞こえてきた。
「……てめえら、やめろ。そいつに、普通の魔法は効かねえよ」
看守たちは魔法の詠唱を止め、魔法陣が全て消えた。
そして、5階あたりにある梁の上に、人が現れた。
「てめえらは、サボっている奴隷どもを働かせるんだ――侵入者は、アタシがぶっ潰す」
「「「了解です、看守長!!!」」」
看守たちはレイから目線を離し、その場で固まっている労働者たちをいつもどおり働かせ始めた。
「お前ら!さっさと石を工場へ運ぶんだ!」
「トロッコが動いてない!早くハンドルを回すんだ!!」
「昇降機が動いてないだろ!機械の様子をちゃんと見ておけ!!!」
「……呑気だな、看守たち」俺はぼそっとぼやいた。「それともあの『看守長』が、よっぽど頼りになるのか?」
『看守長』は、派手な装いの女だった。髪は紫色で腰近くまで伸びていて、着ている服は黄緑色のシャツとピンク色の上着で、へそが見えるほど丈が短い。その上、10本の指先には長い付け爪を着けている。
女は首から楽器をぶら下げていた。色が派手なピンク色だが、ギターみたいだ。女が|(ネイルで!)ギターを掻き鳴らすと、突然爆音とともに、壁に穴が開いた。
「うわ!うっせー!!!」俺は思わず耳を塞いだ――鼓膜が破れるかと思った。
「星霊使いか」レイはじっと女を見つめた。「貸してほしいものがあるんだが、話を聞いてくれるか?」
「……やだね」女もレイをじっと見つめた。「『おひつじ座の星霊使い』と話すことなんて、1つもない」
その時、俺ははっとした。
「あいつが、もしかして『みずがめ座の星霊使い』?」
レイ以外で初めて見る星霊使いだが……キャラ濃すぎじゃね?
レイが看守長を呼び出したかったのは、『石』について訊きたかったからで、『労働者』たちを解放するとか、そんな高尚なことは全く考えてません。結果的に星霊使いとおぼしき人物が現れましたが、それも全くの偶然です。




