025話 5月13日#03
それから1時間後。
エレベーターは25階までしか通じてなかった。だから今、エレベーターを使ってその25階まで来たのだが……
「階段、あったな」レイはそう言って、目の前の大きく螺旋を描く黒い階段を指さした。
「だな。案外簡単に見つかったな」
『まあ、そうじゃないと緊急時に使えませんからね』
「……で、どうしようか?」
俺は試しに、1つ下の段に下りた――予想どおり、タンといい音が響いた。
「この階段駆け下りたら、誰かに足音聞かれて見つかるかもな」
「じゃあ、飛んでいくか」
「……え?」
俺はレイの顔を見つめた。
「私、飛べるよ」
「それは知ってるが、俺は……」
「一緒にぶっ飛ばせばいいんだろう?」
突然、視界がぐらっと揺れ動いた。足元を見ると、足が床に着いてなかった。
――宙に浮いてる!?
『これで全員、飛んで目的の場所へ行けますね!』
「よーし、れっつごー!」
「ちょ、ちょっと……」俺はバランスをとるので精一杯だった。「『ぶっ飛ばす』って……うおお!?」
レイはあっという間にスピードを上げ、1秒で1周する勢いで飛び始めた。そのすぐ後ろを、俺がついていく……のだが、飛ぶのが初めてなのでバランスがとれず、ともすると柱や壁にぶつかりそうになっていた。
『カイトさん!リラックスですよ!』その俺の隣を飛びながら、ピエール33世が教えてくれた。『重心を意識してコントロールすると、体が安定します!』
「重心、か……」
俺はふうと息を吐き、自分の重心を確かめ、安定した姿勢を保てるよう意識した。
こうして上手くバランスがとれるようになった……と思った瞬間。
「……あ。着いた」
「……ぐへっ!!」
俺は壁に激突した。
『……大丈夫ですか?』
「大丈夫……たぶん……」
俺はよろよろと立ちあがった。
その時レイがぼーっとしていたので、その隣に立って周囲の様子を観察した。
そこは、11階だった……明るく開放的な上層階とは正反対で、薄暗く寂れた雰囲気を感じた。廊下の両側には住人の部屋が並んでいるようだが、廊下はがらんとしていて、活気がない。
「ここから下の階へは、別の階段を探す必要があるが……」
「……あ。誰か来る」
俺は、動こうとしないレイを引っ張って、階段下の物陰に一緒に隠れた。
その時、誰かの鼻歌が聞こえてきた。
「あー!今日も仕事終わりかー!」
「やっぱりこの仕事、楽でいいよな!」
姿を現したのは、2人の警備員のような格好をした男だ。片手に一本ずつ、酒が入っていると思われる瓶を持っている。
「酒持ち込める仕事なんて、そうそうないよな!」
「あと、奴隷どもから、いい石を全部没収できる仕事もな!」
「この前取り上げた赤っぽい石とか、領主に売ったらめっちゃ金もらえたよな!」
「ありゃ、珍しい魔法石だろうな。ちょっと売るのもったいない気もしたが……」
「金のほうが大事だろ!」
「だよな!!」
「ぎゃはははは……!!」
うるさく笑いながら、2人は階段を上って姿を消した。俺たちのことは、最後まで全く気づかなかったようだ。
「『奴隷』って……」俺はぽつりとつぶやいた。「たしかもう、この国では禁止されていたような……?」
『数十年前に、奴隷制度を巡って争い事がありましたからね』と、ピエール33世は付け加えた。『ただ、まだ完全に消えたわけではないと思います』
「陰でコソコソと……いや、ちょっと待ってよ。もしかしてこの街全体に奴隷制度が残っているのか?」
『そうかもしれませんね』
「うーん」レイは唸った。「『奴隷』が『石』を持っているのか……?」
「鉱脈で見つかった石か、俺たちが探している『石』か……」俺はじっと廊下を見据えた。「やっぱり調べる必要がありそうだな」
俺たちは階段下から外に出ると、廊下をゆっくりと歩き出した。




