021話 5月12日#07
数分もたたないうちに、音楽家たちの演奏が始まった。明るい弾むような曲が流れ、空いたスペースに男女のペアがそろって歩いていく。
「しっっっかし……俺たち、一体何やってんだろう?」
気持ちよさそうに踊っている人々を見ながら、俺はさっきと同じことを言った。
「食い気と割引に惹かれて、こんなところにいて……」
そもそも、あの無骨な黒い建物の中が、こんなに洒落た造りになってるなんて、俺たちの中の誰もが予想していなかった。
「そういえば、あのリミドって人。ここの領主だって言ってたな……もしかして、『石』に関する情報を持ってたりして……?」
この街のトップの人だ。ありえなくはない。
「ただ、『みずがめ座の星霊使い』の関係者とは限らないし……」
――しかし、俺のポンコツ脳では、それ以上のことは考えられなかった。
ぼんやりとしていると、人混みの中から1人の女の子が姿を現した。
見た目が15歳くらいで、薄いピンク色の、可憐さを思わせるドレスを着ていた。柔らかくふんわりとした淡いブロンドの髪と低い身長に、年齢より幼い印象を受けた。
「ねえねえ、そこの人。私と踊らない?」
「……俺?」俺は左右を見て、他にそれらしい人は誰もいないことを確認した。
「そうそう」女の子はにこにこ笑っている。
俺は、断ったほうがいいのかどうか迷ったが、彼女の純真で眩しい笑顔に心が折れた。
「い、いいけど……」俺は、ぎこちなく女の子に近づいた。「名前は何ていうんだ?」
「『エラ』よ……そっちは?」
「カイト」
「いい名前ね」
俺が差し出した手に、エラはポンと自分の手を乗せた。
「遠くから見てたのより、大きくてゴツゴツした手なのね」
――まあ剣士なんだから、そんなもんだろ。
俺はエラを連れて行き、曲にのってゆったりと踊り始めた。
「へえ、リード上手ね」
「は、はは……」地獄の居残り練習を思い出すから、褒められてもあまり嬉しくはない。
「ねえねえ。カイトはこの街に住んでるの?」
「いや。今は旅行で」
「そうなの……それじゃあ、会ったことないの当たり前ね」
「エラはここにずっと住んでるのか?」
「ええ。生まれた時から、ずっと」
その後もいろいろ話しながら踊っていたが、その最中、エラはなぜかほとんど瞬きもせず、俺の顔をじーっと見つめ続けていた。
――なんかめっちゃ、居心地が悪い。
「ちょっと疲れてきたから、次の曲で最後にしない?」
「ああ。いいけど」
俺とは違って鍛えてないせいか、エラはすぐに疲れたようだ。
踊りながらエラの様子を見ていると、ふと胸元の、赤紫色の大きい石の嵌ったネックレスが目に入った。
「それ……何ていう石なんだ?」
「えーっと、確か……『ロードクロサイト』だったかなあ?一昨日、パパがくれたの」
「ふーん……ずいぶん大きいな」
「そうなの!私の宝物よ!」
「……それは、どこで採れた石なんだ?」
「この街の地下にある鉱脈から採れた石だって、パパは言ってた」
「地下に鉱脈があるのか?」
「そう!宝石だけじゃなくて、魔法石も採れるんだって」
「『採れる』って、どれくらい?」
「それだけで、ウラヌス全体が潤うくらい!」
「そんなに?……知らなかった」
「この街すごいでしょ?魔巧機械の魔力は全部、地下で採れた魔法石でまかなってるの」
「あの、乗ると動く黒い球体とか?」
「そう。それ、『転送球』っていうんだけど。ウラヌスの移動手段よ」
「へえ。外を歩くことはないのか?」
「歩かないよ。外は黒い煙が充満してるから」
「……でもずっと室内にいるのは、体に悪い気がするけど?」
「パパが言ってた……ウラヌスで『光』を見られる人は、清く正しい人だけなの」
「……え?」
「だから、」
エラは俺の両肩に手を置いて、背伸びして俺の耳元で囁いた。
「この街の10階より下には、行っちゃダメよ」
エラは、俺の胸を両手で叩いたと思ったら急に駆け出して、人混みの中へとあっという間に消えていった。
この世界の鉱脈……1か所から魔法石や宝石の原石など、いろんなのが採掘できるらしいです。魔法石があると、その周りの石が宝石の原石に変わるとか何とか……




