020話 5月12日#06
「……て、俺たち何やってんだ……」
俺はふかふかの椅子に前後反対に座りながら、がっくりと肩を落とした。
『まあ、いいじゃないですか』と、ピエール33世は言った。『せっかくなので、楽しんできたら?』
「あー!ロボットになりたい!」俺は、頭を椅子の背もたれに埋めた。「ピエール33世と同型のロボットなら、踊る必要がない!ピエール33世!今すぐ魔法を!」
『それはムリです』
「何で!?」
『ワタクシの倫理観から外れています』
「倫理の問題なの!?」
俺が絶句していると、奥からガサゴソと音が聞こえてきた。
「よーし。これでカンペキ!」
振り返ると、そこにはレイの姿が……
「……レイ?」
「どうだ?似合ってるだろ?」
俺は、唖然とした。
「これで思いっきりビュッフェにかぶりつける!」
「いや、あのな……」俺は頭を抱えた。「お前が燕尾服着てどうすんだよ!?」
レイは、黒く洒落た燕尾服を着て、ドヤ顔で右の親指を立てていた。
「そんなこと言われても、あんな服、どうやって着たらいいかわからん」レイはそう言って、クローゼットに並ぶドレスの数々を指さした。
「いや、それは俺もわかんないけど!」
「いいだろ。ここに用意されてたんだし」
「いや。たぶんダメだと思うけど……」
「それよりそこでゴネてないで、早く支度済ませたらどうだ?」
「えっと…………はい、そうですね」
予想の斜め上をいくレイの行動に圧倒されながら、俺は立ち上がってクローゼットへと向かった。
俺たち3人は支度を終えると、ホテルからさっきいた階段のところまで、歩いて移動した。
「このカタい服……やっぱり着心地が悪いというか……」
俺がそわそわしている横で、レイはうーんと何か悩んでいた。
――レイは、なぜか着方を知っているピエール33世に着付けをしてもらい、何とか緑色のドレスに着替え直した。元々赤系統の色の髪と緑色の目なので、すごく似合ってはいる、のだが……
「この格好で、どうやって飛ぶんだろう?」
「飛ぶなよ?絶対飛ぶなよ!?」
心配なので、ピエール33世にさらに小さくなってもらい、レイのネックレスとして参加してもらうことになっている|(神様ってすげーなー……)。とても気品がある凝ったデザインのネックレスなのだが、嵌められている透き通った宝石が、なぜかいろんな色に発光することができた。
「さあさ、お二人とも、こちらへどうぞ。お食事はいつでも召し上がれますよ」
リミド氏が入り口にいて、俺たちを中へと通してくれた。
中は……めっっっっちゃ豪華!!鏡のようにつるつるに磨かれた床。突き抜けるような高い天井。シャンデリアにある多くのろうそくが揺らめき、その下で数多くの紳士淑女の皆さんが会話に華を咲かせている。
柱は金色、壁は真っ白。俺の背丈よりも大きなガラス窓がいくつもあり、同じくらい長い深緑のカーテンで隠されていた。
よく見ると奥にステージがあって、その上に楽器を持った人たちが何人かいた。『音楽祭』というからには、メインはあのステージにいる人たちなんだろう。
「何か、人が多くて動きにくいな」レイがブツブツ言っていた。「ビュッフェはどっち……ん?」
「そこの元気なお嬢さん、私と一緒に踊りませんか?」
――あ。近くにいた紳士に声をかけられた。
俺は、レイが突然大剣を持ち出さないよう祈りながら、その場を離れることにした。
ウィキペディアで調べたら、『燕尾服』って夜間の正装なんですね。知らなかった。
昼間の正装は『モーニングコート』だそうです。




