016話 5月12日#02
ピエール号は、プラットフォームから離れ、街の上空へと飛び出した。景色が明るくなり、海の方を向くと、水平線までよく見渡せる。
「……おお!」
「何となくこういうの、ワクワクするな!」
俺とレイは、甲板でその様子をしばらく眺めてから、船内へ続く扉を開けた。
――ピエール号には、4つの階があった。
1階には、リビングやキッチン、ダイニング、トイレ、シャワールーム、ランドリーなどの共用設備があった。
2階からは甲板に出ることができ、船内には12もの船室があった。後方に操舵室があり、リング状の舵がひとりで勝手に動いていた。
地下1階はエンジンルームで、動力源である魔巧機械と蓄魔力池があるのが見えた。
一番上にある3階には船長室があった。外が見える大きな窓があり、ベランダもついていて、周囲の様子を警戒することができた。部屋の中には執務用の机があり、脇に航行日誌らしきモノが並ぶ棚があった。
――つまり、
「……凝りすぎじゃね?」
俺はリビングにあるソファにどさっと座った。
「俺たち2人が乗るには、ちょっとデカすぎだろ?」
『何言ってるんですか!』ピエール号の声が聞こえてきた。『もしかしたら今後仲間が増えるかもしれないじゃないですか!その方たちの分も含めて、しっかりとした船にしないと、みんなが快適に過ごせないでしょう?』
「『仲間』って……」
「……何か冒険小説みたいだな」レイは俺の向かい側のソファに座って、本を読みながらつぶやいた。「ちなみに私のオススメは『ロー・クランベリーの冒険』シリーズだ」
『あー、わかりますー!あのシリーズ、ワタクシも大好きです!』
「神様って、人間の本を読むんだな……」
俺はため息をつき、背もたれにもたれかかった。
『……そういえば、カイトさん。ワタクシは、どちらに向かえばよろしいのですか?』
「とりあえず中心街にある一番高い時計塔を目指してくれ」
『一番高い時計塔!了解です!』
俺はしばらくその場で休んでいたが、やがて荷物を置いて、2階から甲板に出た。
甲板には、明るい太陽の光が降り注いでいた。前方から柔らかな風が吹き、俺の髪を後ろへと流していく。眼下には街並みが広がり、建物のオレンジ色の屋根が光を眩しく反射していた。
「すげー!」俺は思わず舳先まで走り寄った。「この街をこんなふうに見るの、初めてだ……!」
『あ!もうそろそろ時計塔近くへ着きますよ!』
言われるまでもなく、すぐ目の前に大きな時計塔が見えた。時計の針は、ちょうど1時を示している。
「あそこに屋根がガラス張りの建物があるだろ?」俺は左の方を指した。「あれ駅なんだ!ちょうど列車が出発するところだ!」
『ワタクシにも見えました!』ピエール号は嬉しそうに言った。『こんなに間近で蒸気機関車を見るのは初めてです!』
「あの線路に沿って、左手に海が見える方向へ飛んでくれ!あの線路はウラヌスまで続いてるんだ!」
『りょーかいです!』
ピエール号は大きく舵をきり、線路に沿って飛び始めた。その前方を、蒸気機関車が黒い煙を噴き上げながら走り去っていった。
「やっぱり速えな」俺はどんどん小さくなっていく蒸気機関車を見つめた。「人生で一度でいいから、乗ってみたいなあ……」
ここはやっぱり、ワクワクするシーンですね!初めての空の旅……なかなかいいですよね〜!
どこにも書いてないですけど、ピエール号のタラップを上ると、1階へ着きます。2階の船室が、船員たち(カイトたち)の個室になります。船長室は……いつかきっと、活用される日が来ると思います!




