011話 5月11日#03
食堂から出ると、俺は街の中を、一人で気ままに歩いた。
俺は歩きながら、レイやピエール33世のことを考えていた。いろいろ気になるところはあるけど、一番はやっぱり「本当にあの2人をほっといていいのだろうか?」ということだった。
2人が頼りないというのもあるが、2人のために俺にも何かできることがある気がする。
――それに詳しい事情を知ってしまったので、何もしないのはちょっと申し訳ない。
「と言ってもなあ……具体的に何をすればいいのか……」
物思いにふけっているうちに、俺は細い裏道に出た。
この街の旧市街は、大人2人が横に並んでギリギリ通れるくらいの狭い道が迷路のように張り巡らされている。もちろん俺も、このあたりで何度も迷子になったことがある。
そんな道の奥に、数人が集まって何かしていた。1人を除いて、みんな同じ灰色のフード付きマントを着ている。
絡まれたくなかったので、俺は回れ右をして元の道を戻ろうとしたが、その前にその人たちに見つかってしまった。
「おや、これは、これは」マントを着ていない男が話しかけてきた。「私たちに何か用ですか?」
「い、いや……」何か嫌な予感がする。
「まあまあ、そう急がずに」男はにやりと怪しい笑みを浮かべた。「ここで私のショーを見てみてはいかがでしょう?」
「……『ショー』?」
「実は私、先ほどあなたが女性と一緒にいて、話をしていたのを聞いたんですが」
――ピエール33世は数に入ってないようだ。
「あなた……『月の神の石』をお持ちでしょう?」
俺は思わず体をびくっとさせた。
「大丈夫です。ちょっとだけでいいので、私に貸していただきたいのです」
――あまり『石』を外に出さないでください。誰かに盗られるかもしれないんで。
さっきピエール33世が言った言葉が蘇る。
「……もしや、その『石』の『本当の使い方』を教えてもらってないのかと思ってまして」
「『本当の使い方』……?」
「私に貸してください。面白いものを見せてあげます」
俺はためらった。でも、ちょっと興味も湧いてくる。
「知らない人に渡せるようなものじゃないんで……」
「ああ。それもそうですね」男はうんうん頷いた。「私は『ピース教団』の幹部のピエールと申します。特に怪しい者じゃありませんよ」
偶然だろうが、ピエール33世と名前が被った。
――それにしても、『ピース教団』って何だろう?初めて聞く言葉なのだが。
「『ピース教団』というのは、世界一すばらしい宗教で、」
ピエールと名乗る男は、勝手に説明を始めた。
「世界一すばらしい『ドゥファン様』を信仰する、世界一すばらしい団体です!」
「3回も『世界一すばらしい』と言われても……」
「確かにこれだけではわかりにくいですね」ピエールは頷きながら言った。「でも、『ドゥファン様の奇跡』を見れば、あなたの心も変わると思いますよ」
「『ドゥファン様の奇跡』?」
そもそも「『ドゥファン』って誰?」と思った。
「それを見せるには『月の神の石』が必要なんです。私を信じて、その『石』を貸してくださいな!」
俺はかなり悩んだが「『石の本当の力』とやらを知りたい」という欲求に抗えず、結局『リブラの石』をピエールに渡した。
「ええ。では、見ててくださいよ!」
ピエールは帽子をとり、仲間のうちの1人に渡すと、その場で勢いよくジャンプした。
――そして、下へ落ちてこなかった。
「……え?」
ピエールは宙にとどまり、その場でくるんと回ったり、左右に揺れたり、逆さまになったりした。
――これって……もしかして、レイのと同じ魔法?
「まだまだ、こんな事もできますよ!」
ピエールがそう言った途端、俺の腰から剣が鞘ごと浮き上がった。
「え、えええ!?」
剣は、俺が押さえる前にピエールの近くへ飛んでいき、ひとりでにくるくる回ったり、鞘から抜けたり鞘に戻ったりした。
「この魔法……物にも使えたんだ……」
――こんなこと、レイもできるのだろうか……?




