第二章 泰三の話-4
※本作は 文芸社より2026年7月に書籍化 されます。
応援してくださる皆さまのおかげです。ありがとうございます。
30歳のとき、僕の人生は音を立てて崩れた。
母のくも膜下出血による介護、うつ、解雇、転職失敗。
どれかひとつでも重いのに、一度に全部が襲ってきた。
それでも――
毎日「1日20分だけ」書くことを続けた。
この作品は、
人生のどん底に落ちた男が、
どうやってもう一度立ち上がったのかという、
“再生の記録” です。
読んでくださるあなたの人生が、
少しでも軽くなるなら、それ以上の幸せはありません。
電車内は驚くほど空いていた。あと一時間遅ければ、通勤・通学の人々で混雑していただろう。始発に乗って正解だったと泰三は思った。誰も座っていない向かい合わせのシートの一角に腰を下ろし、一息ついた。
高崎駅までは約四〇分の道のりだ。暇つぶしに、泰三はワイヤレスイヤホンを取り出し耳にはめた。音楽を聴いていると、まるで世界が色鮮やかに切り替わったかのような感覚になる。音楽は、浪人時代、暇さえあれば聴いていて、心を癒してくれるものだった。
普段は通学で利用している電車も、旅の目的で乗ると、見える景色がまるで違って見える。窓の外に広がる風景も何だか新鮮だ。音楽に身を委ね、車窓から流れる景色を眺め、電車の揺れに身を任せた。
高崎駅に午前七時頃到着した。急いで家を出てきたため、朝食をまだ取っていない。早起きしたために、お腹は自然に空いた。これも久しぶりの感覚だった。駅の改札内にあるコンビニでコーヒーとサンドイッチ、おにぎりを購入した。それから一度改札を出て、駅構内の「みどりの窓口」へ向かった。地元駅は無人駅だったため、新幹線の切符を事前に買うことができなかったためだ。
今回は、高崎駅から渋谷駅まで向かう予定で、高崎―東京駅間は新幹線を利用することにした。
徐々に、人々の活動時間帯になるにつれ、通勤・通学での利用者が増え始め、すでに多くの人々が駅構内を行き交っていた。
それから東京行きの新幹線に乗った。自由席ではあったが、在来線とは違い、明らかに空いていた。泰三は新幹線の自由席のシートに腰を下ろし、先ほどコンビニで買った朝食を食べ始めた。周りを見ると、サラリーマンと思しき人がちらほら確認できた。本を読んだり、新聞を読んでいる。通勤ラッシュ時の電車通勤ではなかなかこうはいかないだろう。泰三の父親は電車通勤だ。いつも満員電車に揺られているのだろう。なかなかシートに座れないだろうし、本などもあまり読めないはずだ。そんな過酷な環境で通勤し、遅くまで働く父親には頭が下がる思いだ。泰三は心の底から感謝した。
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