第二章 泰三の話-2
※本作は 文芸社より2026年7月に書籍化 されます。
応援してくださる皆さまのおかげです。ありがとうございます。
30歳のとき、僕の人生は音を立てて崩れた。
母のくも膜下出血による介護、うつ、解雇、転職失敗。
どれかひとつでも重いのに、一度に全部が襲ってきた。
それでも――
毎日「1日20分だけ」書くことを続けた。
この作品は、
人生のどん底に落ちた男が、
どうやってもう一度立ち上がったのかという、
“再生の記録” です。
読んでくださるあなたの人生が、
少しでも軽くなるなら、それ以上の幸せはありません。
時はさかのぼる。泰三が高校三年生だった頃、大学受験に向けて彼なりに真剣に取り組んでいた。しかし、努力の甲斐なく、第一志望の大学入試にあっけなく落ちてしまった。滑り止めの私立の大学はかろうじて受かってはいたものの、私立大学に通えるほど泰三の家庭は裕福ではない。悩みに悩んだ末、泰三は浪人することを選んだ。
浪人時代、泰三は予備校には通わず、代わりに近所の図書館で勉強に励んでいた。あまり親に迷惑をかけられない思いだった。ただ、自分のやっている勉強が、本当に試験に通用するのか、常に不安がつきまとっていた。何より、図書館で過ごす浪人生活は孤独との闘いだった。来年の入試に失敗すれば、当然二浪となってしまう。周りと年齢差は広がる一方で、自分は無駄に年を重ねていくだけだ。世間には、何浪もする人がいるというが、あまり賢明な選択ではないと感じていたし、元々、自分の能力には限界を感じていたのもある。人生、諦めも肝心。そして、浪人は絶対に一年で終わらせる――そう固く決意し、勉強に打ち込んでいた。
浪人生活が始まってから半年の間は頑張っていたように思う。しかし、毎日図書館と家の往復、家に帰ってから、夕食を挟んで、また勉強だ。ただひたすらに勉強漬けの毎日が続いた。「絶対に受からなければならない」というプレッシャー、勉強をした割に、模試の成績は落ちていく。そんな中、ストレスは、すでに限界を超えていた。
泰三は、休憩だと自分に言い聞かせ、次第にアニメやゲームにのめり込んでいった。ただちに勉強しなければならないと理性では分かっていた。しかし、泰三の感情は、それ以上に勉強することを拒絶するようになっていた。気付けば数時間が過ぎていて、「またやってしまった」とひどく自己嫌悪に陥る。もう俺はだめだと、ふて寝し、現実から目を背ける――そんなすさんだ日々が次第に続くようになっていた。
「こんなことなら、浪人なんてしなければよかった」。そう思っても後の祭りだ。浪人というものは、こんなにも過酷なものなのかと打ちひしがれていた。
それでも、共通試験が近づくにつれ、泰三は自分に鞭を打ち、奮い立たせた。心も病み始めていて、万全の状態であるはずがなかった。それでも、家族の応援もあり、がむしゃらではあるが、再度奮起し、勉強に打ち込み始めることが出来た。そして、努力の甲斐もあり、第一志望とはいかなかったものの、地元の国立大学になんとか滑り込むことができたのだった。
そんな浪人時代を過ごした泰三の心には、まだ癒えきらない傷が残っていたのだろう。自分の手で、自分を変えたい――そんな思いから、彼は電車で旅に出ることを決めたのだった。
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