#1 気付いてしまった
思いつきです。
なんか……好みがバレそう。
えー、こほん。急に語りたくなったので、誰に届くとも知れない独り言を零します。
こちら現代人、転生いたしました。
文明発展中異世界系ファンタジー……であろう世界で、そこそこの国力の国の、公爵家の長男と次女として。
え、言葉がおかしい? 別におかしくないですよ。一人の前世の記憶を、双子として生まれた二人が共有しているだけですよ。
男であるハジェート・ティアース。
女であるミジェール・ティアース。
この二人が、同じ前世を共有しているだけなのです。だから、前世は同一人物で、今は兄妹という関係です。
前世の記憶の方が強いので、考えることも一緒。双子ということもあって、性別と呼び名が違うだけの、もう一人の自分という認識の方が強いですが。
あぁ、そうそう。前世の私たちは所謂喪女でしたので、”私”の方は楽ですが、”俺”の方は、未だに裸になるとドギマギしてしまうそうです。面白いですね。
生まれてすぐの頃は、酷く混乱しましたが、今ではもう、自分が二人なことに納得しました。自分で言うのも何ですが、前世の私たちは、よくある普通に当てはまっていない思考回路である、と思っていましたからね。慣れて納得もいきます。
そうそう、私たちには姉がいます。
気高く、麗しく。されど、微笑みは溶ける様な。私たちとは一歳差なのに、前世があるはずの私たちよりも大人。
そんな、私たちの自慢のお姉様です。
お姉様は、この国の第一王子殿下と婚約を結んでいます。
王子殿下の性格は、会ったら話をする程度ですが……何となく、泣きぼくろがついた甘いマスクにイラッときます。
⸺なので、もしもお姉様を泣かしたら、絶対にぶん殴ろうと思います。無駄にいい面を両側から殴ったら、イイ顔になると思うんだ。私は左頬を殴る!
ま、そんなことにならないことが一番で、平和なんだけどね。
*
⸺なんて、”私”が考えているだろう。
”俺”の膝に頭を乗せながら本を読む優雅な時間に、なんて余計な思考を。全く、相変わらずだ。
同じ思考? 同じ考え方? 同一人物?
そんなことを気楽に言って、”俺”のことを知ったような口で”俺”を語る。
”私”だって、本当は分かっている筈さ。
”私”と”俺”は、根以外は別、だってことを。
あぁけど……姉上のことが大事なのは、確かに”同じ”だろう。それは根っこには当たらない。
この世界に生まれて育った俺たちが、”二人”で考えた生きる指標だから。他人に指標を任せるもんじゃ無いって、前世から知ってる。
でも、何も無いよりはいいだろう?
一先ず、そうした結論を出して、”私”を見る。
………やっぱり、昔よりも綺麗だ。
髪の長さが違う。髪の質が違う。髪の色は同じ。
目の形が違う。まつ毛の長さが違う。目の色は同じ。
「……ふっ」
「……どしたの?」
声が違う。身体が違う。性別が違う。
同じなのは、髪と目の色だけだ。
「……何でもない。ただ、日常を確認しただけさ」
「ふーん……あ、そうだわハジェ。ハジェは、公爵になりますよね?」
「……そうなるだろうね」
頭の中で”俺”と”私”で通じても、他人から見たらただの双子だ。だから俺たちは、口に出して呼ぶ時は、互いを愛称で呼び合う。
”俺”はハジェで、”私”はミジェ。
単純だけど、必要なことだ。
「そうしたら私は、何処かに嫁入りしないと、貴族では無くなりますよね?」
「…………っ?」
⸺は?
嫁入り、嫁、ヨメ……?
”私”が? 誰かの? 嫁になる?
「⸺えっなに? その考えてなかった的な顔は……まさか、”私”がずっと側にいるって思っていたの!?」
……”俺”だって衝撃だ。何せ、ガキの”私”の方が離れる覚悟が決まっているなんて。
「……あぁ、そうだね。そうだよ……クソッ、よく考えなくても、貴族なんだから当たり前だったじゃねぇか…」
「ハジェ、言葉遣い。貴族なんですから、崩しても優しさ……ね?」
「分かってる、でもこれだけは言わせろ」
分かってた。
目を逸らしていた。
向き合いたくなかった。
だって、だってっ………⸺
「⸺”俺”も”私”も、相手がいるのは解釈違いっ!!!」
「えっ、あ…………確かにそうですわ!!!」
これは、俺たちの代で公爵家が滅ぶかもしれない……!
(※彼らは本気で言ってます)
*
「あぁぁぁ………まさか、こんなことに今の今まで気づかなかったなんて……!」
私の頭の上で、”俺”が頭を抱えてぶつくさ言っている。そんなに将来のこと考えて無かったの? ”私”でも思い至ったよ……?
「ハジェ……そういえば、念の為に聞くのだけれど…女の子、好きになれそう?」
「今それ聞くかい?! 今それ聞くかい!?」
「だって、気になるんですもの」
”私”気になるなぁ…”俺”が恋愛的に好きになる女の子。
「まぁ……なれる、とは思う。でも、ミジェは兎も角俺は……公爵になるなら、婚約者が出来ると思うんだけど…」
「…お父様は、典型的なお貴族様ですから。お姉様がアノゼルト殿下と婚約したので……お父様が持ってくるとしたら、うちの派閥の有力家か分家辺りかしら?」
「その辺が妥当か…? しかし……恋愛か」
前世の私たちは、恋愛をしたことがない。
所謂推しはいたが、恋ではなく、捧げる愛だった。
「夜の勉強、真面目に受けるか……?」
「そう、ね……取り敢えず、そうしましょうか…」
今の私たちが、私たちの恋愛について考えると、堂々巡りになるだけに思えた。だから私たちは、今まで何となくでしか学んでいなかった、夜に関する勉強を真面目に聞くことに決めた。
彼等は兄妹で、恋愛感情は持ちません。ただただ、”自分”という存在として、”自分自身”を愛しているだけ。
コレはナルシストなのかずっと疑問……。




