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サンドボックスウォーズ  作者: 黒瀬雷牙
第八章 スペシャルオーダーズの物語

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第四十話 ダークキングの戦力

 夜、キリキリバッタのギルド用とある通常区画。

 キリキリバッタのマスター室と、呼ばれているだけの、ただの狭い部屋。マルメンがこだわってクラフトした、考え事をするときに入る部屋だ。


 モニターの光だけが静かに漂う中、マルメンはゆっくりと椅子にもたれ、手元の細長い箱を指先で弄んでいた。


 その画像の奥。龍臣は、マルホロ・メンソールに火をつける。


 紫煙が、天井にゆらりと昇った。


「……はぁ。ついに来ちまったか、この日が」


 煙を吐きながら、マルメンは“スペシャルオーダーズ”のメンバー一覧を目で追った。


 サーバーランキング48位。

 本来なら30枠の中に自分の名前があってもおかしくない。

 だが、スカイが選ばれた。


 異論はなかった。理由も聞かない。

 ただ――


(無課金勢だけど連れて行きたい子が一人いる)


 ココアの言葉。

 それを誰より真っ先に受け止めたのは、たぶん自分だった。


(きっとスカイって子……オニッシュの心に触れれるんだろうな)


 オニッシュがいたフローライト。

 あの少女が唯一安心していた場所に選ばれた存在なら、そりゃ自分なんかより優先されるのは当然だ。


「異論はねぇけど、頼むぜ…スカイ」


 彼女の影はもうここにはいないのに、どこかでまだ、あの子の軌跡にみんなが導かれている。そんな気さえした。


 その時突然、音量MAXのハイテンションボイスがヘッドセットに響いてくる。


【クルス】「マルメンさーん、入ったで!」


 クルスが元気よくログインしてきた。


【マルメン】「……うるせぇ、音量下げろ」

【クルス】「いやぁ、だって興奮してんすよ。スペシャルオーダーズ、マジで結成したんでしょ? 俺ら、裏方ってか、まぁ、傍観者だけどさ!」

【ルミナ】「お、お邪魔しまーす……」


 続いて控えめな声で入ってくるのは、ルミナ。


【ルミナ】「私たちは今回は留守番だけど……すごいですよね、なんか。ギルマス連合って」

【金糸雀】「私も来たよー!」


 金糸雀まで加わり、一気にVCがにぎやかになる。

 マルメンは少し笑って、煙を吐いた。


【マルメン】「……はぁ、おまえらな。今日は静かに行くって言ったろ」

【クルス】「いやいや、そりゃ無理っすよ。明日にはスペシャルオーダーズの連中、ダークキングにぶつかるんっすよ?」

【ルミナ】「この流れ、わくわくしちゃうの仕方ないっすよね〜」

【金糸雀】「だよねだよね〜!」


 3人が好き勝手に話すのを聞きながら、マルメンはうっすら頭を掻く。


【マルメン】「まあな。たしかに今回のは……サーバー史上一…いや、下手するとこのSBW全サーバーん中で一番デカい話だしな」


 そして、マルメンは言う。


【マルメン】「――で?おまえらは今日何しに来たんだ」

【クルス】「決まってるじゃないっすか!」


 クルスが勢いよく言う。


【クルス】「ダークキングの戦力、見てみようぜ!」

【ルミナ】「私も気になります!」

【金糸雀】「私もー!」


 マルメンはふっと目を細め、モニターの奥で煙を揺らした。


【マルメン】「……ったく。しょうがねぇな」


 椅子を引き寄せ、キーボードに指を置く。


【マルメン】「じゃあ見るか。サーバー最強ギルドってやつの現状を」


 画面に、黒い王冠のエンブレムがゆっくり浮かび上がる。


 明日、スペシャルオーダーズが挑む相手、

 ダークキングのメンバー。


ーーーー

1位:カノン

・言わずと知れたサーバー最強にして“厄災”。

・タイマンで止めるのは不可能。

・一プレイヤーでありながらレイドボス級の存在。


2位:黒王(GM)

・ダークキングのギルマスで、実質サーバー2位。

・戦場把握力と指揮能力が異常に高い。


3位:椿

・神器“天十握剣”の剣士。

・一振りで局面を塗り替える壊滅火力の持ち主。


6位:オニッシュ

・新月装備を完凸コンプした怪物。光属性8割カット。

・ハンマー使いにも関わらず俊敏で、先読みも鋭い“純粋な強者”。


7位:ペイン

・LR双剣“イビル・イン・ライト”の使い手。

・攻撃精度、立ち回りともにサーバートップクラス。


9位:鬼朱雀

・炎魔導士×近接ステータスを両立した魔法剣士。

・奥義“イラプト・インフェルノ”は広範囲高火力+持続ダメの災害級。


10位:シン

・ダブルナイフの雷属性アタッカー。

・防がれても電撃でダメージを通す“削りの鬼”。


13位:ヴァルター

・長槍スピアマスター。

・高速刺突で前衛を貫く“貫通専門の処刑人”。


14位:狼牙

・狂戦士タイプ。

・HPが減るほど火力が爆発的に伸びる危険前衛。


18位:Dr.D=eath

・デバフ極振り魔導士。

・耐性貫通でタンクすら紙にする“嫌われ役”だが、回復も扱う万能型。


24位:BROS

・俊敏特化アサシン。

・後衛処理を一任される暗殺班の切り札。


29位:ザン・シャオ

・双剣コンボ職。

・手数の暴力で中堅クラスを一気に溶かす殲滅DPS。


30位:ケリー

・回復&バフのトップヒーラー。

・彼女一人で前衛の生存率が2倍に跳ね上がる。


33位:アークライン

・異常射程&高火力の弓使い。

・決定的瞬間に刺す一矢はほぼ“確殺”。


34位:ドラテ

・自己再生持ちのタンク。

・引きつけ・時間稼ぎに特化した不沈艦。


39位:nocturne

・暗黒魔術師。

・広範囲DoTと暗闇で乱戦を混沌に変えるコントロール型。


43位:リュート

・トリックスター系サポート。

・分身/錯乱/ヘイト撹乱で戦場を“狂わせる”プロ。


ーーーー


【マルメン】「……これが最強軍団・ダークキング、ってわけか」

【クルス】「17人でこの戦力……マジで頭おかしいっすよこれ。普通のギルドの主力30人分じゃないっすか」

【ルミナ】「うわ……前も思ったけど、後衛も前衛も穴なさすぎじゃないですか?どこ殴っても強いって」

【金糸雀】「バフもデバフもタンクも火力も、揃いすぎてて逆に笑えるレベル」


 マルメンは腕を組み、ぽつりと呟いた。


【マルメン】「……まあ、有利なのは侵攻側。取り返しじゃなく、攻めでいい。普通なら勝てる。カノンさえいなきゃな」


 画面に1位の名、カノンが淡く光る。


【クルス】「ゲームバランス壊した張本人っすよね? 32サーバー1位で、初期含めた全サーバーでも5位とか」

【金糸雀】「うちのサーバーにいるのおかしいですよね、あんなの」


 マルメンは苦い笑みを見せた。


【マルメン】「ダークキングは間違いなく、カノンを金区画の主に置いてくる。ギルドバトルの制限時間、二時間以内にあいつを倒すのが、勝利条件だ」


 部屋の空気がほんの少しだけ重くなる。


【ルミナ】「制限時間…そっか、ギルドバトルって夜九時から十一時だもんね」

【金糸雀】「そんなに時間がかかることないから、気にしたことなかった……」

【クルス】「つまり……スペシャルオーダーズは、“あいつ”と正面衝突するってわけっすね」

【マルメン】「――ああ。逃げ場なしのガチ勝負だ」


 紫煙が揺らぎ、モニターの光をぼんやりと歪ませる。


 スペシャルオーダーズは、ただの選抜じゃない。

 サーバー史上最大の、最強決戦の尖兵だ。


 彼らは応援することしかできないが、それでもその感情は昂っていた。

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