第四十話 ダークキングの戦力
夜、キリキリバッタのギルド用とある通常区画。
キリキリバッタのマスター室と、呼ばれているだけの、ただの狭い部屋。マルメンがこだわってクラフトした、考え事をするときに入る部屋だ。
モニターの光だけが静かに漂う中、マルメンはゆっくりと椅子にもたれ、手元の細長い箱を指先で弄んでいた。
その画像の奥。龍臣は、マルホロ・メンソールに火をつける。
紫煙が、天井にゆらりと昇った。
「……はぁ。ついに来ちまったか、この日が」
煙を吐きながら、マルメンは“スペシャルオーダーズ”のメンバー一覧を目で追った。
サーバーランキング48位。
本来なら30枠の中に自分の名前があってもおかしくない。
だが、スカイが選ばれた。
異論はなかった。理由も聞かない。
ただ――
(無課金勢だけど連れて行きたい子が一人いる)
ココアの言葉。
それを誰より真っ先に受け止めたのは、たぶん自分だった。
(きっとスカイって子……オニッシュの心に触れれるんだろうな)
オニッシュがいたフローライト。
あの少女が唯一安心していた場所に選ばれた存在なら、そりゃ自分なんかより優先されるのは当然だ。
「異論はねぇけど、頼むぜ…スカイ」
彼女の影はもうここにはいないのに、どこかでまだ、あの子の軌跡にみんなが導かれている。そんな気さえした。
その時突然、音量MAXのハイテンションボイスがヘッドセットに響いてくる。
【クルス】「マルメンさーん、入ったで!」
クルスが元気よくログインしてきた。
【マルメン】「……うるせぇ、音量下げろ」
【クルス】「いやぁ、だって興奮してんすよ。スペシャルオーダーズ、マジで結成したんでしょ? 俺ら、裏方ってか、まぁ、傍観者だけどさ!」
【ルミナ】「お、お邪魔しまーす……」
続いて控えめな声で入ってくるのは、ルミナ。
【ルミナ】「私たちは今回は留守番だけど……すごいですよね、なんか。ギルマス連合って」
【金糸雀】「私も来たよー!」
金糸雀まで加わり、一気にVCがにぎやかになる。
マルメンは少し笑って、煙を吐いた。
【マルメン】「……はぁ、おまえらな。今日は静かに行くって言ったろ」
【クルス】「いやいや、そりゃ無理っすよ。明日にはスペシャルオーダーズの連中、ダークキングにぶつかるんっすよ?」
【ルミナ】「この流れ、わくわくしちゃうの仕方ないっすよね〜」
【金糸雀】「だよねだよね〜!」
3人が好き勝手に話すのを聞きながら、マルメンはうっすら頭を掻く。
【マルメン】「まあな。たしかに今回のは……サーバー史上一…いや、下手するとこのSBW全サーバーん中で一番デカい話だしな」
そして、マルメンは言う。
【マルメン】「――で?おまえらは今日何しに来たんだ」
【クルス】「決まってるじゃないっすか!」
クルスが勢いよく言う。
【クルス】「ダークキングの戦力、見てみようぜ!」
【ルミナ】「私も気になります!」
【金糸雀】「私もー!」
マルメンはふっと目を細め、モニターの奥で煙を揺らした。
【マルメン】「……ったく。しょうがねぇな」
椅子を引き寄せ、キーボードに指を置く。
【マルメン】「じゃあ見るか。サーバー最強ギルドってやつの現状を」
画面に、黒い王冠のエンブレムがゆっくり浮かび上がる。
明日、スペシャルオーダーズが挑む相手、
ダークキングのメンバー。
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1位:カノン
・言わずと知れたサーバー最強にして“厄災”。
・タイマンで止めるのは不可能。
・一プレイヤーでありながらレイドボス級の存在。
2位:黒王(GM)
・ダークキングのギルマスで、実質サーバー2位。
・戦場把握力と指揮能力が異常に高い。
3位:椿
・神器“天十握剣”の剣士。
・一振りで局面を塗り替える壊滅火力の持ち主。
6位:オニッシュ
・新月装備を完凸コンプした怪物。光属性8割カット。
・ハンマー使いにも関わらず俊敏で、先読みも鋭い“純粋な強者”。
7位:ペイン
・LR双剣“イビル・イン・ライト”の使い手。
・攻撃精度、立ち回りともにサーバートップクラス。
9位:鬼朱雀
・炎魔導士×近接ステータスを両立した魔法剣士。
・奥義“イラプト・インフェルノ”は広範囲高火力+持続ダメの災害級。
10位:シン
・ダブルナイフの雷属性アタッカー。
・防がれても電撃でダメージを通す“削りの鬼”。
13位:ヴァルター
・長槍スピアマスター。
・高速刺突で前衛を貫く“貫通専門の処刑人”。
14位:狼牙
・狂戦士タイプ。
・HPが減るほど火力が爆発的に伸びる危険前衛。
18位:Dr.D=eath
・デバフ極振り魔導士。
・耐性貫通でタンクすら紙にする“嫌われ役”だが、回復も扱う万能型。
24位:BROS
・俊敏特化アサシン。
・後衛処理を一任される暗殺班の切り札。
29位:ザン・シャオ
・双剣コンボ職。
・手数の暴力で中堅クラスを一気に溶かす殲滅DPS。
30位:ケリー
・回復&バフのトップヒーラー。
・彼女一人で前衛の生存率が2倍に跳ね上がる。
33位:アークライン
・異常射程&高火力の弓使い。
・決定的瞬間に刺す一矢はほぼ“確殺”。
34位:ドラテ
・自己再生持ちのタンク。
・引きつけ・時間稼ぎに特化した不沈艦。
39位:nocturne
・暗黒魔術師。
・広範囲DoTと暗闇で乱戦を混沌に変えるコントロール型。
43位:リュート
・トリックスター系サポート。
・分身/錯乱/ヘイト撹乱で戦場を“狂わせる”プロ。
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【マルメン】「……これが最強軍団・ダークキング、ってわけか」
【クルス】「17人でこの戦力……マジで頭おかしいっすよこれ。普通のギルドの主力30人分じゃないっすか」
【ルミナ】「うわ……前も思ったけど、後衛も前衛も穴なさすぎじゃないですか?どこ殴っても強いって」
【金糸雀】「バフもデバフもタンクも火力も、揃いすぎてて逆に笑えるレベル」
マルメンは腕を組み、ぽつりと呟いた。
【マルメン】「……まあ、有利なのは侵攻側。取り返しじゃなく、攻めでいい。普通なら勝てる。カノンさえいなきゃな」
画面に1位の名、カノンが淡く光る。
【クルス】「ゲームバランス壊した張本人っすよね? 32サーバー1位で、初期含めた全サーバーでも5位とか」
【金糸雀】「うちのサーバーにいるのおかしいですよね、あんなの」
マルメンは苦い笑みを見せた。
【マルメン】「ダークキングは間違いなく、カノンを金区画の主に置いてくる。ギルドバトルの制限時間、二時間以内にあいつを倒すのが、勝利条件だ」
部屋の空気がほんの少しだけ重くなる。
【ルミナ】「制限時間…そっか、ギルドバトルって夜九時から十一時だもんね」
【金糸雀】「そんなに時間がかかることないから、気にしたことなかった……」
【クルス】「つまり……スペシャルオーダーズは、“あいつ”と正面衝突するってわけっすね」
【マルメン】「――ああ。逃げ場なしのガチ勝負だ」
紫煙が揺らぎ、モニターの光をぼんやりと歪ませる。
スペシャルオーダーズは、ただの選抜じゃない。
サーバー史上最大の、最強決戦の尖兵だ。
彼らは応援することしかできないが、それでもその感情は昂っていた。




