第三十九話 スペシャルオーダーズ
大学の講義中。
スマホはかばんの奥にしまっているのに、頭の中は昨日のディスコードで埋め尽くされていた。
(どうしよう……32ギルマス連合って、本当に動き出しちゃった……)
教授の声も、黒板の文字もまったく入ってこない。
ペンはただ、無意味な線をノートに刻むばかり。
「上野美玲さん、聞いてますか?」
名前を呼ばれ、美玲はびくっと顔を上げる。
周囲の視線が刺さるように集まり、背中が熱くなる。
(やば……また怒られる……)
そのとき、肩を軽く叩く指先があった。
振り向くと、冬吾が心配そうに覗き込んでいた。
「おい、美玲。どうした? さっきからずっと上の空だぞ」
美玲の彼氏であり、ゲームでの黒鉄でもある冬吾。
普段はクールなのに、こういうときだけ妙に頼もしい。
「あのね……昨日の、ギルマス連合の件。どうなるか全然わかんなくて……」
冬吾はふっと笑い、ノートの上に手を軽く置いた。
「なるほどな。でも焦るなよ。全ギルド巻き込みの大ごとなんて、普通は起こらねぇんだ。気負う必要ない」
「でも……ちゃんとまとめられるか……みんながどう思ってるかも不安で……」
「それは今日わかる。各ギルドのギルマスが、メンバーの意見を持ち寄るはずだ」
その言葉が、少しだけ胸のざわつきを和らげた。
夜。
オンラインで、ギルマス会議が始まった。
各ギルドからの“内部反応”が次々に報告されていく。
【Miley】「ブルーアーチはやる気だけど、数名に不安あり。私と黒鉄が向かいます」
【アリス】「ウィンドクローバーは布告防衛を優先。参戦は私だけ」
【牙】「ブラッドハウンドは全員乗り気。ただ、戦力は俺だけだろ」
【マルメン】「キリキリバッタは参加希望が多い。ただ調整が必要だな。俺は戦力外だが、たっちゃんパパ、琉韻love、ペイン因縁組、シャインも行ける」
【らいおん】「焼肉キングダムは参加OK。戦力になるのは俺だけだ」
【すなっち】「サンドウォールの参加者は俺ひとり。一時的協力は可能。任せろ」
【ココア】「フローライトは、上位が抜ける間は内部の布告を最小限にする条件で了承。無課金勢だけど一人連れて行きたい子がいる。Rain、White、リデル、烈火、そる、そして私が行く」
メモを取りながら、美玲は息を整える。
各ギルドの“最強クラス”が集まることは決定的だった。
そして、選抜オーダー決定へ。
【Miley】「では、各ギルドから出せる上位実力者をまとめて、選抜を決めましょう」
ブルーアーチ。
ウィンドクローバー。
ブラッドハウンド。
斬々抜断。
焼肉キングダム。
サンドウォール。
フローライト。
そして王国騎士団。
全勢力の精鋭をかき集めた、前代未聞の作戦会議が動き出す。
(ついに……来るんだ。32ギルマス連合、初の実戦選抜オーダー……)
そして翌日――。
24時間の待機を終え、フローライトは一時的に名前を変えた。
「スペシャルオーダーズ」
銀区画へと続々と集まる選抜メンバー。
既存メンバーは他ギルドに出張し、枠は完全に“対DK仕様”へ。
その名簿を見て、美玲は息を呑んだ。
【スペシャルオーダーズ選抜メンバー30名】
ココア(GM・32位/フローライト)
ランスロット(4位/王国騎士団)
すなっち(5位/サンドウォール)
ガラハッド(8位/王国騎士団)
Rain(11位/フローライト)
ガウェイン(12位/王国騎士団)
たっちゃんパパ(15位/斬々抜断)
トリスタン(16位/王国騎士団)
レオネル(17位/王国騎士団)
ベディヴィア(19位/王国騎士団)
琉韻love(20位/斬々抜断)
ジェイ(21位/王国騎士団)
ノイス(22位/斬々抜断)
パーシヴァル(23位/王国騎士団)
マーリン(25位/王国騎士団)
White(26位/フローライト)
リオン(27位/斬々抜断)
エクター(28位/王国騎士団)
オルウェン(31位/王国騎士団)
Miley(35位/ブルーアーチ)
ガレス(36位/王国騎士団)
牙(37位/ブラッドハウンド)
リデル(38位/フローライト)
烈火(40位/フローライト)
アリス(41位/ウィンドクローバー)
そる(42位/フローライト)
シャイン(44位/斬々抜断)
らいおん(45位/焼肉キングダム)
黒鉄(46位/ブルーアーチ)
スカイ(162位/フローライト)
(ついに……ここまで来ちゃったんだ)
美玲は画面を見つめたまま、胸の奥がじんと熱くなるのを感じていた。
本来ならあり得ない組み合わせ。
サーバー全勢力のトッププレイヤーが――ひとつのギルドとして並んでいる。
これは宣戦布告だ。
ダークキングが気づかないはずがない。
(銀区画を借りて、ギルドを一度解体して……全員そろってくれた)
本当に「始まる」のだ。
逃げられる理由なんていくらでもあった。
“格下のくせに出しゃばるな”と言われてもおかしくなかった。
でも――
(みんな、本気でこの“無理ゲー”に乗ってきてる……!)
牙も、アリスも、すなっちも、たっちゃんパパも、らいおんも。
そして王国騎士団の主力までもが、美玲の企画に乗ってくれた。
もう、怖がってる暇なんてない。
震える指先でチャットを開き、意を決して打ち込む。
【Miley】「スペシャルオーダーズの皆さん。これより作戦会議を開始します。――ダークキング戦、全力で勝ちに行きましょう!」
送信。
瞬間、スタンプと「任せろ!」「行くぞ!」「盛り上がってきた!」の文字が画面を埋めた。
美玲はゆっくりと息を吐き、笑った。
(行こう。サーバー最強がどうとか関係ない。
私たちは――“勝ちに行く”)
震えはまだ残っている。
でも、それはもう恐怖なんかじゃない。
期待と昂揚が混ざり合った、“覚悟”だった。
ーーー 第七章 Mileyの物語 完 ーーー




