第三十七話 冗談からでた大作戦
ダークキングが奈落六層を踏破した、その週末。
ギルドバトル開始の鐘が鳴った瞬間、ブルーアーチのディスコードは異様な静けさに包まれていた。
三ギルド裏連盟――ブルーアーチ、ウィンドクローバー、ブラッドハウンド。
相互布告によって三つの銅区画は完全に守られ、さらにダークキングは銅区画も銀区画も持たないため、中央金から動けない。
だが、違和感はすぐに現れた。
【リキ】「……なぁ、サンドウォール、未布告なんだが?」
【アリス】「銀二つも持ってるのに?なんで仕掛けてこないの……」
【らん】「北西銀のフローライトも、動かないんだね」
【Miley】「あの子たちが沈黙って、逆に気味悪いわ」
銀以上のギルドが、まるで凍り付いたように静止していた。
王国騎士団も、焼肉キングダムの東銅だけを取りに行く一点突破。
フローライトは黙り込み、サンドウォールも無言。
全体が不自然なほど動かない。
沈黙が重く部屋を満たした頃、牙が小さく笑った。
【牙】「……フッ」
【アリス】「何が可笑しいのよ」
牙が笑い、アリスがツッコむ。
このやりとりは、三連盟の定番になるかもしれない。
牙はため息のように、しかし確信を持って言った。
【牙】「サンドウォールもフローライトも、ダークキングに勝てねぇって確信しただけだよ」
空気が、一瞬で凍った。
【リキ】「確信?」
【らん】「前回の王国騎士団戦に、奈落六層の踏破」
【ファントム】「あれ見せられたら、そりゃ誰も挑まねぇよな」
牙は続けた。
【牙】「動かねぇんじゃねぇ。動いたら殺されるって、上位ギルドほど理解してる。だからどいつもこいつも金区画を避けた。そういうことだ」
沈黙の理由が、ようやく形を持った瞬間だった。
サンドウォールも。
フローライトも。
王国騎士団すらも。
ダークキングを避けるしかない。
銀帯の静止。サーバー上位の沈黙。
その全てが一本の線でつながった。
Mileyは息を呑む。
(じゃあ今日のギルドバトル……“上位は誰も戦わない”の?)
その時、Mileyがぽつりと放った冗談。
【Miley】「ダークキングに勝つにはもう、ダークキングに所属していないランカー集めるしかないじゃん…」
誰もが軽く流すと思った。
けれど、その瞬間。
【牙】「……それだ」
【アリス】「え、待って。本気でソレじゃない?」
【リキ】「あっ、確かにそれしかねぇ!」
【らん】「ダクキンを倒すには……ダクキン以外の最強を全部集めるしかない!」
冗談が、一瞬で現実的提案に変わった。
そして、驚くべきことにブルーアーチ、ウィンドクローバー、ブラッドハウンドのギルマス3人が、同時に動き出した。
【牙】「上位ギルドのGM連中に声かけてくる。どうせ今のままじゃ誰も動けねぇ。だったら連合って旗を立ててやるよ」
【アリス】「うちも行く。特に銀帯のギルマス、今はめちゃくちゃビビってるから、まとめるなら今が最大のチャンス」
【Miley】「じゃあ、うちは中堅ギルドの取りまとめをする。ランカー率は低くても数がいるし、補強には絶対必要だから」
ギルマス3人が、それぞれの得意分野で動く。
牙は王国騎士団へ。
アリスはフローライトとサンドウォールへ。
Mileyは斬々抜断と焼肉キングダムへ。
まるで最初から決まっていた役割のように、三人が同時にディスコードを飛び出していった。
残されたメンバーは、しばし呆然としていた。
【らん】「え、ほんとに行っちゃった……?」
【リキ】「やべぇ、これ……マジでサーバー史に残るやつじゃん」
【ファントム】「何この展開、ワクワクが止まらねーんだけど!?」
その時だった。
ピコン、と通知音。
《Mileyが新しいチャンネルを作成しました》
そこに現れたチャンネル名を見て、全員が固まった。
【# 32ギルマス連合】
【リキ】「ガチじゃん……」
【らん】「名前がもうガチ……」
【ファントム】「ギルマスたち、仕事早すぎ」
わずか数十秒前まで冗談だった話が、いま、サーバー全体を巻き込む巨大プロジェクトへと変貌していく。
動かない銀帯。沈黙する上位ギルド。
誰もダークキングに挑まない不自然な静けさ。
その膠着を破るのは、まさかのブルーアーチの冗談だった。
そしてこの瞬間から、
32サーバー最大規模の“史上初・全ギルド横断連盟”が動き出すことになる。
Mileyの画面の向こうーー
大学一年生・美玲の手は、スマホを握ったまま小刻みに震えていた。
(え、えらいことになっちゃった……!!)
ついさっきまで、ブルーアーチのVCで軽いノリで言っただけだった。
「ダークキングに勝つにはランカー全部集めるしかなくない?」
――ただの冗談。それ以上の意味なんてなかった。
なのに。
気付けば牙もアリスも本気で動き出し、
そして自分もギルマスとして走り出した。
スマホが鳴りまくる。
ピコン!
ピコンピコン!
DMが連続で飛んでくる。
相手を見るたびに、美玲の心臓は跳ねた。
まず一つ目。
【マルメン】「面白そうじゃん。うちは協力前提。ギルマス連合入る。俺とウチの指揮官のシャインに招待頼む」
「……マルメンさん!? 早っ!!」
驚きの、即前向き返答。
そしてもう一件。
【らいおん】「この流れは乗るしかないでしょ!ペンギンも連れて行く。うちもギルマス連合入れて!」
「らいおんさんまで!? ほんとに来ちゃうの!?」
スマホを見る美玲は、布団の上でごろごろ転げた。
(ちょ、待って……これほんとに私が言い出しっぺみたいになってるじゃん……!)
心臓が早鐘のように鳴る。
けれど、同時に胸が熱くなる。
(でも……すごいことになってる……!)
そして、通知がさらに増える。
《マルメンが #32ギルマス連合 に参加しました》
《シャインが参加しました》
《らいおんが参加しました》
《ペンギンが参加しました》
次々と、ギルドの中核が入室していく。
その光景は、まるでサーバーの歴史が書き換わっていく瞬間だった。
美玲は深呼吸して、震える手でスマホを持ち直す。
(ブルーアーチのギルマスなんだから……ちゃんとしなきゃ)
そして、ついに現れた。
【 #32ギルマス連合】
参加メンバー一覧
管理人: ブルーアーチ Miley(GM)
・ブラッドハウンド 牙(GM)
・ウィンドクローバー アリス(GM)
・斬々抜断 マルメン(GM)
・同 シャイン(指揮官)
・焼肉キングダム らいおん(GM)
・同 ペンギン(副リーダー)
・フローライト ココア(GM)
・同 White (副リーダー)
・サンドウォール すなっち(GM)
そしてーー
・王国騎士団 ランスロット (GM)
たった数分で、サーバーの主要ギルマスと、ギルドの中核が揃っていた。
(……ほんとに、始まっちゃったんだ)
美玲はごくりと息を飲む。
冗談から始まった“全ギルド連合”は、
もう後戻りできない規模へと膨れ上がっていた。




