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オンラインゲーム:サンドボックスウォーズ ―画面の向こうの絆―  作者: 黒瀬雷牙
第六章 オニッシュの物語

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第三十六話 快進撃

 翌日、日曜日。午後九時。


 ギルド戦の余韻がまだ残る中、ダークキングはすでに次の舞台へ移っていた。


 星6レイド・不道明王。


 石造りの巨大祭壇。蒼白い炎が揺らめく中央に、禍々しい六臂の影がゆらりと立ちはだかる。

 ログインした瞬間から、全員の背筋がぞくりとするほどの圧。


【鬼朱雀】「不道明王って……星6でいいのか!?これ絶対もっと強いやつだろ!」


 いつも通り真っ先に声を上げる鬼朱雀。

 その横で、黒王が淡々と武器を確認しながら答えた。


【黒王】「まあ、明王の上には“菩薩”と“如来”がいるからな。序列としてはこのくらいで妥当だ」

【鬼朱雀】「菩薩と如来?不道明王より上いんのか?」


 さらに椿が、やや呆れ気味に付け加える。


【椿】「お地蔵さんっているでしょ? あれ“地蔵菩薩”。不道明王より位は上なの。だから星6は普通よ」

【シン】「へぇ……知らなかった。ゲームしながら仏教の勉強してる気分だな」

【鬼朱雀】「確かに! なんか賢くなった気がしてくる!」


 ダークキングの空気は良くなっていた。心に影を持つ物は数名いるが、それでもまろんがいたころのようなギスギス感はない。

 戦闘前なのに、どこか仲の良い部活の休憩時間みたいな会話が流れる。


 だが、不道明王の咆哮が響いた瞬間、空気が一変した。六本の腕が同時に振り下ろされ、地面が赤黒い衝撃波を吐き出す。

 周囲の岩が砕け飛び、観戦勢のチャットがざわつく。


【カノン】「開幕、少し火力が高いな」

【黒王】「まずはパターン見てから入るぞ」


 椿が風壁を展開し、迫る火焔を切り裂く。

 ペインの双剣が残像を引きながら接近し、肉薄して腕一本を切り落とした。


【ペイン】「一本!」


 だが、不道明王は怒りの咆哮とともに即座に再生する。


【オニッシュ】「再生系……面倒」


 ハンマーを担ぎ、黒いオーラをまとった地砕きが炸裂。衝撃波が不道明王の足元に走り、巨体を揺らす。


【鬼朱雀】「よっしゃ、手数で押すぞ!!」


 シンの雷撃が頭上から降り注ぎ、カノンの黒炎が隙間を抉る。

 黒王は淡々と全体バフとデバフの管理をしながら、的確に狙撃を重ねる。


 戦闘は激しい。しかし、誰が見ても優勢だった。


 紫苑の配信画面のコメントは加速度的に伸びていく。


《昨日のギルド戦のメンツだ!》

《不道明王、星6でこれ!?》

《ダークキング強すぎバロタ》

《紫苑ちゃんの解説マジわかりやすい》


 そして、ついに。


【黒王】「次で終わらせる。全員、合わせろ」


 カノンの刀に黒炎が収束し、椿の風が一点に集束する。ペインと鬼朱雀が左右から同時に切り込み、オニッシュがハンマーを振り上げた。


【オニッシュ】「アースブレイク・イクリプス!!」


 閃光。

 巨体が、音もなく崩れ落ちる。


【システム】《不道明王 討伐完了》

【システム】《星6レイド 報酬獲得》


 余力を残しての、完勝だった。


 戦闘を終え、紫苑は配信画面を確認する。


「わっ……同時接続もコメントも、昨日から倍以上……!」


 琉韻が後ろから覗き込み、満足そうに頷く。


「ふふん。アンタらが活躍すれば、そりゃ数字も伸びるわよね~。紫苑、来週もこれ続けなさい!」


 紫苑は苦笑しながらも、どこか誇らしげだった。


 レイドも、配信も、大成功。


 こうしてダークキングの週末は、圧勝のまま幕を下ろした。


 そして翌日、月曜日。午後十一時。


 連日の激戦にも関わらず、ダークキングの集合は驚くほど早かった。

 レイドの勢いそのままに、彼らは“奈落”へと足を踏み入れる。深淵へ沈むほどに、空気は濃く、重く、静かになっていく。


 そして――


 奈落・第六層【海底都市・アビスネレイダ】


 水面に映るのでも、幻でもない。

 彼らの前に広がっていたのは、古代文明が海の底へそのまま沈んだような巨大都市だった。


 青白い光が瓦礫の間をゆらめき、崩れた尖塔の影がゆらりと揺れる。

 水の抵抗はないが、足元にはどこか柔らかい“圧”があり、呼吸すら奪おうとする不気味な静寂が漂っている。


【鬼朱雀】「うお……ここ、今までの層と空気が違うな……」

【椿】「音が吸われてる感じがするわね。ここは生き物の気配も薄い」

【シン】「そりゃ海底都市って感じするけど……この静けさ、逆に怖いな」


 カノンが刀を抜きながら、周囲を警戒する。


【カノン】「気を引き締めろ。ここの守護者は、ただのボスじゃない」


 黒王も同じく、装填を終え静かに呟いた。


【黒王】「第六層は、全サーバーの中でも踏破ギルドが一桁。理由は単純に、ボスが理不尽に強いからだ」


 その言葉の直後、水底全体が不意に震えた。


 瓦礫の狭間から、透き通る歌声がゆっくりと響き始める。美しい、しかしどこまでも悲しげな旋律。


 そして、青光をまとった長い尾びれが、水の闇の中から現れた。


 悲哀の人魚姫・ペシミスティ


 蒼白い肌。深海の宝石のような瞳。

 そして、胸元から尾びれにかけて刻まれた呪詛の文様。


 その美しさと同時に、背筋を冷たく撫でる絶望の圧。


【鬼朱雀】「やべぇ、絶対強いじゃんこれ」

【椿】「見惚れるほど綺麗だけど、殺気は尋常じゃない」


 ペシミスティが唇を震わせる。

 その瞬間、空気が、世界が、ひとつ軋んだ。


【カノン】「来るぞ!」


 次の瞬間――

 蒼い魔法陣が六重に展開され、都市全体が“幻想の水”に飲み込まれた。

 空間そのものが歪んで見える、極めて危険な広域魔法。


【シン】「視界が反転してる!?」

【鬼朱雀】「上下わかんねぇ! なんだこのクソ技!!」

【オニッシュ】「冷静に……足場の感覚で合わせて」


 ペシミスティは、水と幻影を操る魔王格。

 六層の踏破率が低い理由も、その理不尽な“認識阻害”スキルにある。


 しかし、カノンは迷わない。


 刀を握るその目は、幻影すら斬り裂く黒炎に染まっている。


【カノン】「黒炎一刀・虚幻絶断」


 黒炎の刃が伸びると同時に、空間を撫でるように広がっていた幻想が一瞬にして、真っ二つに割れた。


 視界が戻る。


【鬼朱雀】「カノン!! なんで見切れんだよこんなもん!」

【カノン】「本物の殺気の方向だけ見てりゃ十分だ」


 続いて黒王。


【黒王】「幻想魔法の根源を断つ」


 ペシミスティの胸元の紋様が砕け、水と幻影の障壁が崩れた。


【椿】「二人が……幻想魔法を切り裂いた……!」

【黒王】「全員、今だ。畳みかける」

【ペイン】「了解」


 ペインの双剣が高速で舞い、青い血飛沫が散る。

 シンの雷撃が海底都市に反響し、音を置き去りにして炸裂する。


【鬼朱雀】「今日で六層、終わらせるぞォ!!」


 オニッシュのハンマーが水底を砕き、震動が奔る。


【オニッシュ】「ディープ・クラッシュ!!」


 崩れた都市の柱が連鎖的に折れ、ペシミスティの動きが一瞬止まる。


 カノンと黒王が並び立った。

 黒炎と暗紺の魔力が重なる。


【カノン】「黒炎・一刀……」

【黒王】「魔導銃・虚水破……」


 その連携は、まさに阿吽の呼吸。


交差撃破クロス・アナイアレイト!!」


 黒と紺の閃光が交わり、海底都市そのものを照らした。ペシミスティの身体が砕け、淡い光となって静かに散っていく。


【システム】《悲哀の人魚姫・ペシミスティ 撃破》

【システム】《第六層 クリア達成》


【鬼朱雀】「マジで……クリアした……!?」

【椿】「第六層って、本当にこんなに早く抜けられるものなの?」

【シン】「全サーバーで十ギルド未満だぞ……俺たちやばすぎるだろ……」


 紫苑の後ろで、琉韻が深い息を吐いて言う。


「……これ、紫苑の配信バズるわよ。第六層クリアの瞬間とか絶対伸びる」


 紫苑は震える手で配信ログを確認し、驚きに目を見開いた。


「……視聴者数、昨日のレイドの三倍……!?コメントも……止まらない……!」


 カノンは刀を下げ、黒王は無言で頷いた。


【黒王】「次は第七層。ラグナロクに追いついてみせる」

【カノン】「あぁ、ダークキングなら、行ける」


 その言葉に、一行は自然と笑みを浮かべた。

 第六層を突破できるギルドは、全サーバーでも片手で数えられるほど。

 だが、その歴史にダークキングの名が刻まれた。


 紫苑もやる気になる。理由は一つ。


(この調子で視聴が伸びて,使ったお金を早く返せば、きっとフローライトに戻れるんだ)


 ……だが、紫苑の願いとは裏腹に、琉韻は紫苑を、そんな簡単に解放する気などまったくなかった。


ーーー 第六章 オニッシュの物語 完 ーーー


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