表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オンラインゲーム:サンドボックスウォーズ ―画面の向こうの絆―  作者: 黒瀬雷牙
第六章 オニッシュの物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/94

第三十三話 ひとりぼっちの戦い

 キリキリバッタによるギルドバトル二枚抜き狙い。

 紫苑はこの日、ブラッドハウンドへの侵攻を、頑なに単騎出陣を希望した。


 なぜ一人で行きたいのか?


 答えは簡単だった。

 姉・琉韻がギルドバトルの存在を知ってしまったから。


「単騎で攻めるとか、最高の画が撮れるじゃん。配信つけなさい」


 奈落ソロの配信をして負けた夜。

 紫苑は、泣きながらキーボードを握りしめていた。


 姉は、それを“ネタ”として扱った。


 逃げられない。

 だから、誰とも組めない。


 ギルチャに戻る。

 マルメンが作戦案を提示していた。


 南西と南東。

 南西は本隊、南東は精鋭3~4人。


 紫苑の胸がざわつく。


(南東……ブラッドハウンド。あそこなら、絵になる)


 気づけば、指が動いていた。


【オニッシュ】「南東は僕一人でやるよ」


 瞬間、ギルチャが凍った。


【クルス】「は? 無理無理無理!!」

【ルミナ】「1人とか死ぬ気?」

【シャイン】「ふざけてるの?」


 無理もない。

 いくら侵攻有利のギルドバトルとはいえ、数が多い方が有利だ。単独での突破なんて、ありえない。


 でも、紫苑は淡々と返す。


【オニッシュ】「一人でやった方が早い」


 本音は違う、言えるわけがない。


 「配信しろって姉に命令されてます」なんて。

 そんなの知られたら、もっと軽蔑される。


【たっちゃんパパ】「負けたら終わりだぞ!?」

【ノイス】「さすがに無謀だって!」


 紫苑は、呼吸を整える。

 手が震えていることに気づかれないように。


(お願い……誰も来ないで。私の戦いを“配信の道具”にしないで)


 再び、キーボードを打つ。


【オニッシュ】「……一人にしないなら、行かない」


 静寂。

 画面の向こう側で、全員の思考が止まる気配がした。


(本当は、誰かと戦いたい。肩を並べて笑って、勝ちたい)


 でも、それは叶わない。

 私の戦いは、いつも一人で終わる。


 数秒後。


【マルメン】「…わかった」


 短い言葉。

 でも、その一言には重さがあった。


【マルメン】「南東はオニッシュに一任する」

【クルス】「マスター!?」

【ルミナ】「一人だよ!?」

【たっちゃんパパ】「まじか…!」


 押し寄せる反対意見。

 紫苑は、ただ一言だけ打った。


【オニッシュ】「大丈夫、勝つよ」


 勝つって言わないと、誰も納得しないから。

 でも、紫苑自身には確信がなかった。


 ――南東銅区画。


 開始の合図が鳴った瞬間、紫苑は息を止めた。


(配信、開始。視聴者数……上がってる)


 画面隅に映る自分の配信枠。

 姉から強制された枷。

 手が震えるたび、視聴者数が跳ね上がる。


「ソロでギルド戦とかやべー」

「これ勝ったら伝説」


(黙って……見ないで……)


 紫苑は、チャットを閉じた。


 目の前には、砦。

 ブラッドハウンドの紋章が掲げられている。


(時間はない。早く終わらせないと……)


 紫苑は、突っ込んだ。


 叫び声。

 スキルエフェクトの光。

 防衛側は十人。

 しかし、紫苑には関係なかった。


 敵のスキルが飛んだ瞬間、紫苑は一歩だけ横へずれた。


【カゲロウ】「え、今の避けられるのかよ!?」

【らん】「火力おかしい!」


 視界が赤く染まる。

 巨鎚が振り抜かれるたび、HPバーが吹き飛んだ。


(早く、終われ)


 紫苑はもう、戦いを楽しんでいない。

 勝つことが目的じゃない。


 誰にも見られず終えたい。


 砦前に、最後の一人。

 ブラッドハウンドのギルマス・牙。

 男は震える手で剣を掴み、


【牙】「ば、化け物が……」


 紫苑は淡々と告げた。


【オニッシュ】「遅い」


 一閃。

 巨鎚が、軌跡を描いた。


 それで終わった。


 静寂。

 風が、倒れた敵の間をすり抜ける。

 紫苑は、砦の前でただ立っていた。


(……終わった。やっと……)


 だが、ログが遅れて表示される。


【システム】《南東銅大区画 勝者:斬々抜断》


 ギルチャが騒ぎ始める。


【クルス】「え!? 南東終わってる!?」

【ルミナ】「早ッ!?」

【シャイン】「そっち10人守ってたよね!?」

【ノイス】「主…落としたってことか?」


【マルメン】「……お前、本当に1人でやったのか」


(聞かないで)


【オニッシュ】「うん」


 短く、終わらせるように。


 でも、興奮した観戦勢が騒ぎを広げる。


「開始14分で終了とか聞いたことねぇ」

「単騎突破?頭おかしいだろ」


(お願い……騒がないで……)


 そして最悪の言葉が飛んだ。


「今の動き、篝火紫苑に似てね?」


 一瞬、心臓が止まった。


【クルス】「は?」

【ルミナ】「篝火琉韻の妹!!」

【シャイン】「え、どういうこと!?」


「今日、紫苑の配信見てた!」

「立ち回り完全に同じ!」

「オニッシュ=篝火紫苑ってことで確定?」


 画面が揺れる。

 紫苑の呼吸が止まる。


(やめて……やめて……!!)


【琉韻love】「私は知ってたけどね(笑)」


 姉のファンが、勝ち誇ったように言う。


(どうして……どうして言うの……?)


 もう隠せない。

 逃げ場なんて、最初からなかった。


【オニッシュ】「だから嫌だったんだ」


 チャットが止まった。

 その一言で、全員が理解した。

 私は“篝火紫苑”として見られたくなかった。


(私は、ただのプレイヤーでいたかっただけなのに)


 紫苑の手は、冷たく、震えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ