第八話 心強い仲間
ココアの画面の向こう――梨花はスマホを片手に驚いていた。
スカイが、よりによってトップユーザーのオニッシュを勧誘しだしたのだ。
「いやいや、相手にされるわけ……」
そう呟いた瞬間、画面の右上に通知が走る。
【システム】《オニッシュさんがギルドに参加しました》
「えぇぇぇえっ!?」
梨花は思わず声を上げた。
【オニッシュ】「よろしくお願いします」
梨花は慌ててメッセージを打つ。
【ココア】「ようこそ!こちらこそよろしく!」
【そる】「うぉ、スッゲー人きたな!」
【スカイ】「オニッシュさんと同じギルド、嬉しいっす!」
梨花は慌てて、オニッシュのステータスを開いた。
画面には意外な数字が並んでいる。
レベル16。
(え……思ってたより、低い?)
ココアのレベルは22。ダークキングのメンバーに至っては30前後だ。
トップ層にしては控えめな数値に、梨花は小さく首をかしげた。
(忙しい人なのかな……)
そう思って装備欄を見た瞬間、息をのむ。
武器:新月の鉄鎚+5
盾:なし
頭:新月の重兜+5
胴:新月の重鎧+5
腕:新月の重籠手+5
足:新月の足鎧+5
靴:新月の具足+5
装飾:鬼神の勾玉+5
※統一効果:被光属性ダメージ80%軽減
(新月装備のフルセット……しかも全部+5!? どれだけ課金してるの!?)
新月シリーズが最強というわけではない。
だが、一式を揃えて+5まで強化するのは中課金程度では絶対に無理。
梨花の指先は震え、心の中でただ呟く。
(やっぱり……“本物”の上位勢なんだ)
転送ゲートが光を放ち、視界が一瞬、白く染まる。
次の瞬間、フローライトの四人は、巨大な岩壁に囲まれた荒野の中央へと降り立っていた。
――レイド開始。
空は黄昏色に染まり、遠くから地鳴りのような咆哮が響く。
丘の上に、山のような体躯のキングゴブリンが立っていた。
赤黒い肌に無数の傷、手には鉄柱のような棍棒。
一歩踏み出すたびに、大地が震える。
【ココア】「全員、落ち着いて! 範囲攻撃に注意して!」
【そる】「うわ、近づくだけでヤバそう!」
【スカイ】「魔法、詠唱始めます!」
【オニッシュ】「前は僕が出る」
低く穏やかな声が響く。
漆黒の鎧の男・オニッシュが、ゆっくりと鉄鎚を構えた。
ココアは即座に距離を詰め、短剣を抜く。
盗賊のココアと戦士のオニッシュが前衛。
魔法使いのスカイと僧侶のそるが後衛。
これが、フローライトの布陣だった。
開始早々、画面の端に次々と赤い通知が流れる。
【ギルド:ウィンドクローバーが全滅しました】
【ギルド:ホワイトキャットが全滅しました】
(やっぱり……!)
ココアは歯を噛みしめた。
転生者たちは知っている。レイドは甘くない。
このイベントでは、ほんの一撃で壊滅するギルドも珍しくないのだ。
【ココア】「回避優先! 攻撃パターン覚えて!」
【そる】「了解! ヒール間に合わないと死ぬ!」
【スカイ】「援護魔法、発動!」
キングゴブリンの腕が振り下ろされるたび、衝撃波が地面を裂く。
砂煙が舞い、HPバーが一瞬で削られる。
しかし、オニッシュの立ち回りは異常なほど冷静だった。
彼は一歩も退かず、攻撃を最小限に受け流し、隙を突いて渾身の一撃を叩き込む。
そのタイミングに合わせて、ココアが背後から急所を突く。
スカイの魔法が追撃し、そるの回復が全員を支える。
息の合った連携、誰もが集中していた。
【ココア】「今っ! 全火力、集中して!」
【スカイ】「ファイア!」
【そる】「加護展開!」
【オニッシュ】「終わりだ」
鈍く唸る音とともに、新月の鉄鎚が振り下ろされる。
キングゴブリンの頭部が砕け、地面が爆ぜた。
数秒の沈黙のあと、巨体がゆっくりと崩れ落ちる。
――討伐完了。
画面上に、まばゆい文字が浮かび上がった。
【キングゴブリン 討伐成功!】
【報酬:最高ランク報酬を獲得しました】
その瞬間、チャットが沸き立つ。
【そる】「やったぁぁ!!!」
【スカイ】「マジで倒したのか!?」
【ココア】「みんなナイス! 完璧だったよ!」
【オニッシュ】「いい連携だった」
ココアの胸に熱いものが込み上げた。
新参ギルド〈フローライト〉が、たった四人でキングゴブリンを討伐…これは奇跡に近い快挙だ。
結果発表で明らかになったのは、討伐成功ギルドはわずか二つ。
フローライト
ブルーアーチ
他のギルドは全滅。
星2のタイラントワームを討伐したのは、強豪〈キリキリバッタ〉ただ一つ。
そして、星3に挑んだ〈ダークキング〉は…敗北。
梨花は静かに深呼吸した。
小学五年生の息子が寝静まったリビングで、スマホの光だけが彼女を照らしていた。
(……本当に、勝てたんだ)
現実では味わえない達成感が、胸を満たしていった。




