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オンラインゲーム:サンドボックスウォーズ ―画面の向こうの絆―  作者: 黒瀬雷牙
第五章 牙の物語

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第二十五話 牙の奇策

 月曜日、午後十時前。

 土曜日のギルドバトルで、オニッシュ一人に完封されたブラッドハウンド。あれからギルド拠点は静まり返っていた。


 表向きは平和。だが、牙の胸中は嵐のように荒れていた。


 オニッシュのダークキングへの移動。

 一人でも勝てないのに、そのレベルがゴロゴロといるギルド。


(このままだと、ブラッドハウンドは飲まれる)


 誰もがそれを理解していた。

 だが、怖くて口にできないだけ。

 ギルドマスターの牙は立ち上がり、メンバー全員に向かって宣言する。


【牙】「もう、今回からなりふり構わない」


 ざわつくギルド。


【リキ】「なりふり構わないって……牙のアニキ、まさか課金で殴るとか?」

【カゲロウ】「いや、牙のアニキはそういうタイプじゃないだろ」

【牙】「あぁ、奇策だ」


 空気が変わった。

 牙が歯を見せてニヤリと笑う。


【牙】「他ギルドを巻き込む。共闘だ」


 ディスコ 臨時通話会議


 夜十時半。


 牙は二人に招待を送った。


 ウィンドクローバー:ギルマス アリス

 ウィンドクローバー:白兎

 ブルーアーチ:ギルマス Miley

 ブルーアーチ:黒鉄


 ブラッドハウンドは牙とらん。それぞれのギルドから 代表者2名ずつ が入り、通話が繋がる。


【牙】「時間取らせて悪い。今日呼んだのは、合併の話じゃない」

【Miley】「合併じゃない?てっきり合併の話かと思っていたけど…なら何を?」

【アリス】「ギルド同士の同盟は、こういうゲームではよくない行為ですよ?」

【牙】「あぁ、同盟はよかねぇ、裏で共闘するのはルール違反じゃない。それともダークキングや王国騎士団だけが楽しんでるのを、指咥えて見てんのか?」


 全員が息を飲む。


【牙】「このゲームの戦争システムで、各ギルドの布告は()()()2()()()()()


 歯車が回るように、全員の表情が変わった。


【牙】「俺たち3ギルドが互いに布告すれば、敵は手を出せなくなる。」


 アリスが気づく。


【アリス】「……あ。私たちが ブラッドハウンドに布告、ブラッドハウンドが ブルーアーチに布告、ブルーアーチが ウィンドクローバーに布告する……」

【白兎】「三すくみの“布告ループ”が完成する!」

【牙】「そうだ。」


 牙がゆっくりと言葉を刻む。


【牙】「“合併しない共闘”、名付けて《布告ループ戦術》だ。」


 沈黙。


 それから。


【Miley】「…………最高にバカで、最高におもしろい。」

【黒鉄】「うちのギルメン、こういうの大好物です」


 通話の向こうで笑い声が上がる。


【牙】「一強時代なんて認めない。死ぬ気であがく。勝ち目がゼロなら、知恵で抗う」


 通話の熱が一息ついた頃、ひとりが口を開いた。


【黒鉄】「……だが、ひとつ問題がある」


 低く、冷静な声。

 場の空気を引き締めるように。


【黒鉄】「ブルーアーチはすでに《西銅区画》を持ってる。だが、ウィンドクローバーとブラッドハウンドは区画無しだ」


 アリスも続ける。


【アリス】「そう。布告ループは理論上完璧でも、

 区画がなければ布告されても意味がない。守れる拠点がないのだから」


 沈黙が落ちる。

 そんな中、ブラッドハウンドNo.2のらんが、落ち着いた声で口を開いた。


【らん】「取ります」

【Miley】「……はい?」

【らん】「銀区画を攻めるギルドから奪います。次のギルド戦、狙うギルドはほぼ予想できてる。そこに先に布告して奪う。そして、いつか金に全勢力で挑むギルドから銀区画も奪います」


 全員が一瞬、言葉を失った。


【黒鉄】「……マジでやる気だな」

【らん】「本気です。牙さんの()()は、区画を持っていて初めて成立する。なら、取りに行くしかないんです。」


 らんの声は淡々としていたが、迷いがなかった。

 だが、さらに白兎が懸念を口にする。


【白兎】「でも……そんな露骨に布告し合ったら、他ギルドにバレない?あいつら、すぐ裏で繋がってるとか騒ぐよ?」


 牙は笑った。豪胆な、獣の笑いだった。


【牙】「バレる? ならバレないように見せかければいい」

【白兎】「見せかけ……って?」

【牙】「裏同盟同士で、ちゃんと戦う。“演出”すればいい。本気で殴り合って、拠点の取り合いもやる。時々、わざと負けたり、拠点を入れ替えたりする」

【アリス】「……劇場型同盟、ってこと?」

【牙】「そうだ。稽古にもなる。どこが弱いかもわかる」


 牙は、あえて言い切った。


【牙】「そして、外から見たら敵同士。内側では同じ目的の仲間だ」

【Miley】「でも、そんな綿密な連携、ほんとにメリットあるの?」


 牙は即答した。


【牙】「あるさ。ダンジョン攻略も、素材集めも全部シェアする。情報、ルート、編成。三ギルドが協力すれば、どのギルドにも負けない」


 アリスが息を呑む。


【アリス】「……素材共有まで? そこまでやるの?」

【牙】「“勝つため”だ。ダークキングの独走は終わらせる。」


 短い沈黙。

 だが、もう迷っている者はいなかった。


【黒鉄】「……いいだろう。な、Mileyさんよ」

【アリス】「ウィンドクローバーも参加します。」

【Miley】「ブラッドハウンドの気合、受け取ったわ」


 牙がゆっくりと締める。


【牙】「獣は、檻に入らねぇ」


 こうして、


 ブラッドハウンド

 ウィンドクローバー

 ブルーアーチ


 三つの牙が確かに噛み合った。


 サーバー史上初の“裏同盟”が、静かに動き出す。

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