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オンラインゲーム:サンドボックスウォーズ ―画面の向こうの絆―  作者: 黒瀬雷牙
第四章 マルメンの物語

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第二十三話 ギルドマスターとして

 勝利の余韻が、ギルドチャットにまだ残っていた。


 南西、南東の二枚抜き。

 サーバー全体が沸き立ち、騒ぎ、讃え合っている。

 だが、マルメンだけは笑えなかった。


(このままじゃ……ダメだよな)


 マルメンは席から立ち、深呼吸した。

 マルホロ・メンソールを咥え、火をつける。


 ギルドマスターとして、逃げてはいけない瞬間がある。


 ――今が、その時だ。


【マルメン】「love、少し話せるか」


 チャットの流れが止まった。


【琉韻love】「いいよ」


 静かに、二人は個人チャットへ移動する。


【マルメン】「聞く。オニッシュの正体、知ってたな?」


 一拍。


【琉韻love】「知ってたよ」


 迷いのない返事に、マルメンの胸がざらつく。


【マルメン】「じゃあ聞く。オニッシュがうちに来た理由、本当は何だ?」


 琉韻loveの打鍵が一度止まる。


【琉韻love】「マルメンには関係ない話だよ」

【マルメン】「ある。ギルマスだからな」


 短い沈黙。


【マルメン】「俺は、見て見ぬふりをした。フローライトにいた頃、オニッシュは生き生きとしていた。オニッシュがうちに来てから、人が変わったように暗かった。最初はフローライトの連中と揉めたんじゃねぇかとも思った。――だが、フローライトと戦ったとき、確信した。なんかあるなって」


 画面の前で、自分の拳が震えているのがわかる。


(守りたかった。この場所を)


【マルメン】「……でも、逃げた。もし追求したら、ギルドが崩れる気がして。それが怖かった。俺は、ギルドマスターなのに」

【琉韻love】「マルメンらしいね」


 皮肉ではない。

 ただ、少しだけ笑っている気配がした。


【マルメン】「答えてくれ。オニッシュをフローライトから連れてきたのは、お前か?」


 琉韻loveは長く息を吸ってから、指を動かした。


【琉韻love】「脅したの」


 胸が冷たくなる。


【琉韻love】「オニッシュの正体、篝火紫苑だって気づいた。私、琉韻のファンだから。だから近づきたくて、欲しくて…私、自分でも抑えられなくて」

【マルメン】「……」

【琉韻love】「バラされたくなかったら、うちに来いって言った」


 マルメンの呼吸が止まった。


 今までの違和感が、繋がる。


【琉韻love】「オニッシュはフローライトのメンバーと仲良かった。でも、私はそれが嫌だった。私と仲良くしてほしくなったの」

【マルメン】「だから、引き裂いたのか」

【琉韻love】「そうだよ」


 琉韻loveのチャットが、淡々と続く。


【琉韻love】「私はね、オニッシュが欲しかったの。

 強くて、可愛くて…琉韻そっくりな彼女が、手の届く位置にいるような気がして…私だけのものにしたかった。」


 狂気ではない。

 ただ、必死だったのだとわかる。


(……それでも、許されない)


【琉韻love】「マルメン。私はクビ、だよね?」


 その問いには、罪悪感と諦めと、ほんの少しの安堵も混じっていた。


 マルメンは目を閉じて、煙草を吹かした。


(俺は、ギルドマスターだ)


【マルメン】「クビにしない」

【琉韻love】「……え?」

【マルメン】「俺はさ、仲間が戻りたいと思える場所にしたいんだ」

【琉韻love】「…………なんで。私、最低なことしたのに」

【マルメン】「最低かどうかなんて知らねえよ、だが、これ以上、仲間を道具にするなら容赦しない」


 琉韻loveの返事は、泣き出しそうなほど小さかった。


【琉韻love】「わかった」


 チャットが静かになる。

 だが、マルメンははっきりと感じていた。


【マルメン】「これからもよろしくな。お前も大切な仲間だから」

【琉韻love】「え、好き」

【マルメン】「ガキに興味はねぇよ(笑)」

【琉韻love】「ガキじゃないもん…」


 少し間を置き、マルメンは真剣に告げた。


【マルメン】「オニッシュにはちゃんと謝れよ。それでどうこうなるかなんてわからねぇけど、筋は通せ。俺はフローライトのココアに詫びを入れるから」

【琉韻love】「うん、オニッシュに謝る。逃げない」


 琉韻loveとの個チャを終えたあと、マルメンはしばらく動けなかった。


 画面には、まだ余韻が残るギルドチャット。


【たっちゃんパパ】「明日のレイドも勝つぞー!」

【クルス】「飯うまwww」

【ルミナ】「イェーイ!バッタ最強!」


 その明るさが、胸に痛かった。


(俺は……ギルドを守れたのか?それとも、ただ先送りにしただけなのか?)


 二本目のマルホロ・メンソールに火をつけ、深く吸い込む。煙が肺を満たす瞬間、決意も同じように固まっていく。


(逃げるな。筋を通せ)


 マルメンはスマホを取り、フローライトのギルドマスター・ココアにDMを送った。


【マルメン】「今いいか? 話がある」


 数分後。返信が来た。


【ココア】「こんばんは……オニッシュの件だね?」


 呼吸が止まる。


【マルメン】「聞いてるんだな」  


【ココア】「全チャで流れたから。オニッシュ=篝火紫苑って広まった瞬間、うちのギルド大パニックになったわ」


 マルメンの手が止まる。どれだけオニッシュが仲間に愛されていたのか、フローライトの雰囲気が目に浮かぶ。


【マルメン】「悪い。理由を話す」

【ココア】「その前に、ひとつ」


 画面越しでも伝わる。雰囲気が重い。


【ココア】「オニッシュは、自分の意思でそっちに移籍したのか?」


 煙草の火が、紙の先まで焼け落ちる。


【マルメン】「違う」

【ココア】「知ってる。嘘ついたらあんたを現実でぶっ飛ばしに行くとこだった」

【マルメン】「すまなかった」

【ココア】「……もういいよ。マルメンさんは筋を通した。てか、現実でぶっ飛ばすってとこノーリアクション?ツッコむとこだよ?」

【マルメン】「……ココアさんにゃ敵わねぇな」

【ココア】「ギルドは違っても、同じゲームで、同じサーバーで戦ってる仲間でしょ。――同級生みたいなもんじゃん」


 DMが途切れた。

 スマホを置き、マルメンは三本目のタバコに火をつける。


「……同級生、か」


(俺は、仲間を守れるギルマスでいたい)


 フローライトにとっても、

 王国騎士団にとっても、

 サンドウォールにとっても、

 そしてダークキングにとっても。


 守りたい仲間は、俺だけのものじゃない。


「上手いこと言うな……ホント、敵わねぇわ」

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