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オンラインゲーム:サンドボックスウォーズ ―画面の向こうの絆―  作者: 黒瀬雷牙
第四章 マルメンの物語

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第二十二話 オニッシュの正体

 午後九時。

 戦場のカウントダウンが終わり、空が一瞬、白く染まった。


 ギルド戦開始


 マルメン率いる本隊は、南西銅区画へ突入する。


【マルメン】「全員、いくぞ!」


 目の前の砦には《ウィンドクローバー》の旗。

 防衛側は既に布陣を整えていた。


 開始と同時、敵の矢と魔法が雨あられのように降る。


【ピノキオ】「前衛止めろ!落とせ!!」

【シャイン】「ノイスさん、前へ!壁頼んだ!」

【ノイス】「任せろォ!!」


 ノイスが巨大な戦斧を地面に叩きつけた瞬間、衝撃波が前衛をまとめて吹き飛ばす。


【白兎】「なっ……うわっ!?」

【クルス】「すげぇ! 入口空いた!」


 マルメンは、味方の動きを逃さない。


【マルメン】「琉韻love、右側の弓職まとめろ!」

【琉韻love】「了解」


 琉韻loveの姿がふっと消える。


 次の瞬間――


 紅蓮の爆発が右側の弓兵ラインを焼き払った。


【琉韻love】「ルビーフレイム!」


 炎が弧を描き、敵を飲み込む。

 焦るウィンドクローバーと、興奮するダークキングのメンバー達。


「やばい、魔法消せ――!」

「loveさん、殺意高すぎッ!!」


 さらに追撃。


【琉韻love】「まだ終わらないわヨォ、フレイム・サークル!」


 足元から炎が立ち上がり、逃げ道を塞ぐ。

 敵弓職が一斉に崩れた。


【たっちゃんパパ】「右側壊滅! 今なら中央抜ける!」

【金糸雀】「ヒール回します、前出て!」


 ノイスが空いた中央を押し広げる。


【ノイス】「どけぇッ!!」


 斧が唸り、金属音が火花を散らす。


 敵前衛の盾ごと貫通。

 落ちた敵を踏み越え、前に進む。


(この流れ、止めるな……!)


【マルメン】「中央突破!このまま押し切る!」

【全員】「了解!!」


 琉韻loveの炎が後衛を削り、

 ノイスの斧が前衛を切り開く。

 クルスやリオンも活躍し、全員で押し込む。

 マルメンはその隙間を縫って突撃した。

 視界の先に、ウィンドクローバーのギルマスにして、今回主を務めるアリス。

 サーバー総合力ランキング41位、ウィンドクローバー唯一のランカー。


【アリス】「簡単には終わらない!!」


 だが、もう遅い。


【シャイン】「一斉攻撃!」


 味方の攻撃が集中する。

 HPゲージがみるみる削れる。

 そして――


【システム】《南西銅大区画 勝者:斬々抜断》


【クルス】「やったぁあああ!!」

【金糸雀】「ナイス!!」

【琉韻love】「ふー、汗かいた」

【ノイス】「おう、次だ次!」


 マルメンは息を吐く。


(……取れた。確実に)


 チャットが勝利に沸き立つ中、

 マルメンの視線は、別の場所へ向いた。


オニッシュ ― 単騎突撃


 マルメンたちが勝利の余韻に浸っているその頃。


 南東銅区画では――

 戦いが、すでに終わっていた。


 静寂。


 まるで誰も戦っていなかったかのような、異様な光景。


 ブラッドハウンドの砦前に、黒い影が一つだけ立っている。


 オニッシュだった。


 倒れた敵の間を、風が通り抜ける。


【牙】「ば、化け物が……」


 ギルマスにして主の男は、震える手で地に刺さった自分の剣を掴もうとする。しかし。


【オニッシュ】「遅い」


 無慈悲なほど淡々と、オニッシュの巨鎚が光を引いた。


 一閃。それだけだった。


 チャットの時差で、ようやくギルド全体が騒ぎ始める。


【クルス】「え!? 南東終わってる!?」

【たっちゃんパパ】「は?早すぎない??」

【シャイン】「そっちは10人守ってたよね!?」

【ノイス】「主…落としたってことか?」


 ログに、淡々と表示される文字。


【システム】《南東銅大区画 勝者:斬々抜断》


 キリキリバッタの二枚抜きが確定する。


【マルメン】「……お前、本当に1人でやったのか」

【オニッシュ】「うん」


 短い。

 あまりにも短くて、逆に怖い。

 ブラッドハウンドとて弱小というわけではない。

 ギルマスの牙はサーバー総合力ランキング37位、他にも数名のランカーがいる。


【琉韻love】「1人で主撃破って、普通じゃないわよ?」

【金糸雀】「ちょ、チャット見て!!」


 続々と、他ギルドからのシステムチャットや野次が流れ込んでくる。


「南東銅、開始から14分で終了」

「単騎?嘘だろ!?」

「オニッシュだ!マジ何者!?」


 サーバーが沸いていた。


(やりやがった……本当にやりやがった)


 マルメンは戦場のモニターを眺めながら、唇をゆるめる。


 しかしその直後、空気が変わった。

 キリキリバッタとは無関係の、観戦勢がざわついている。


「おい、今の神業的な動き…どっかで見たことある」

「火力もだけど、タイミングがバケモン」

「あの感じ、まさか…」


 そして、決定的な一言が飛んだ。


「え、オニッシュさん……まさか 篝火紫苑??」


 一瞬、ギルチャが凍った。


【クルス】「は?」

【ルミナ】「篝火琉韻の妹!!」

【シャイン】「え、どういうこと!?」


 ハコニワ勢は、続ける。


「今日、紫苑の生配信見てたの!」

「俺も!立ち回りが完全に同じ、スキル回しも、エフェクトの位置も!まさか同じサーバーだったなんて!」

「倒されてた人達も完全にブラッドハウンドの人達だ!」


 震えるようにチャットが流れる。


「あれ、同じ人だよ。間違いない!」


 ギルド内が、ざわつく。


【クルス】「え、ちょ、オニッシュさんって…芸能人なの?」

【金糸雀】「隠してたってこと?」

【たっちゃんパパ】「おいおい、loveの推しの妹?んな奇跡ある!?」

【琉韻love】「私は知ってたけどね(笑)」


 そして、全員が注目する中、オニッシュは一言だけ言った。


【オニッシュ】「だから嫌だったんだ」


 龍臣はその一言で、全てが理解できた。

 誰にも知られず、黙って勝つつもりだった。


(そうか。だから……ひとりで行ったのか)


 龍臣はアイドルに興味などなかった。

 いくら考えても、この答えには辿り着けなかった。

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