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オンラインゲーム:サンドボックスウォーズ ―画面の向こうの絆―  作者: 黒瀬雷牙
第一章 スカイの物語

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8/100

第七話 ギルドメンバーと初のレイド!

 翌朝。

 空也は大地の家を出た。

 昨日の夜は遅くまでサンドボックスウォーズをしていたため寝不足気味だ。


「じゃ、またな! 部活行ってくる!」


 玄関先で大地が笑う。サッカーシューズの入ったバッグを肩にかけ、颯爽と駆けていった。


 大地は一年生にして、サッカー部のレギュラー。

 県でも有名な強豪校で、去年の大会ではベスト8入り。それでも彼は疲れた顔ひとつ見せず、むしろ楽しそうにボールを追っている。


 空也は軽く手を振って見送り、坂道を下りながら大きく伸びをした。

 雲ひとつない快晴。昨日の戦いがまるで遠い夢だったように、静かな朝だった。


 現実は、いつも少し味気ない。


 彼も一応、剣道部に所属している。

 だが、強いわけでも、特別な情熱があるわけでもない。

 初段をもっており、中学の町内大会で優勝したことはあるが最後の大会では初戦敗退。

 その敗北以来、「なんとなく」続けているだけだった。


 今日は剣道部の練習が休みの日だ。

 顧問の山田先生が研修とかで不在らしい。


 剣道経験は浅いのにやたらと厳しく、声が小さいだの、礼がなってないだのと説教ばかり。

 部長より弱いのに口調だけは軍隊のようだ。

 正直、練習がある日の方が憂うつになる。


「今日は休みでよかった……」


 小さく息を吐き、空也はゆっくりと歩き出す。

 休日の午前、通学路の人影はまばらだ。

 コンビニの前を通りすぎ、歩きながらスマホを開いた。


 画面には、昨日の仲間たちの名前が並んでいる。


【ココア】「おはよう 昨日の試合すごかったね!」

【そる】「おはよー、何?どんな!?」


 空也は思わず微笑む。

 現実の朝より、こっちの朝のほうが明るい気がした。


【スカイ】「おはようございます! ダークキングが勝ちましたが、おじサムライ、マジでかっこよかったです!」

【ココア】「だよね! 最後まで諦めなかったのが本当にすごかった!」

【そる】「ラストサムライやん、カッコいいな」


 短いやり取りなのに、胸の奥が温かくなった。

 顔も知らない人たちなのに、心の距離は不思議と近い。


 坂道の途中、風が通り抜ける。

 空也はスマホを握りしめ、空を見上げた。


 剣道も、ゲームも、どこか似ている。

 勝てない日もあるけど、続けていればきっと何かが変わる。


「……午後、少し練習でもすっかな」


 自分でも驚くような言葉が口から漏れた。

 気づけば足取りが軽くなっている。


 現実のフィールドでも、もう少しだけ、踏ん張ってみよう。

 そう思いながら、空也は家へと向かって歩き出した。朝の日差しが、前を向く彼の背中を静かに照らしていた。


 その日の夜。

 空也は夕飯を終えると、いつものように自室へと戻った。

 机の上には教科書と剣道の面が無造作に置かれている。けれど、今夜だけは勉強でも練習でもない。


 モニターをつけると、画面にサンドボックスウォーズのロゴが浮かび上がる。

 起動音とともに、彼の心も自然と高鳴った。


【ココア】「今日はレイドだね!」


 ログインすると、すでに仲間たちのチャットが盛り上がっていた。

 空也は、ゲーム内ではスカイ。すぐに返事を打つ。


【スカイ】「お、もうみんな集まってる?」

【そる】「あとちょっと! 緊張して手汗やばい!」

【ココア】「大丈夫だって!初レイドだし、まずは楽しもう!」


 スカイはモニターの前で微笑んだ。

 レイド…それは、毎週日曜の夜九時から一時間限定で行われる特別イベント。

 ギルドメンバー全員で巨大なボスモンスターに挑む協力戦だ。


 チャット欄には次々と作戦会議の書き込みが流れていく。


【スカイ】「で、どのボス行く?」

【そる】「上位ギルドは星2とか3行くんでしょ?」

【ココア】「うん、でもスカイとそるは初参加だし、まずは星1のキングゴブリンからにしよ!」

【スカイ】「了解! 一番下から、だな」

【そる】「キングゴブリンって名前、弱そうで強そうで微妙w」


 ギルドロビーには、数多くのプレイヤーが集まっていた。

 広大な石造りの円形ホール。中央の巨大な転送ゲートを囲むように、様々な装備を纏った冒険者たちが談笑している。

 ギルドごとに陣取ったテーブルには、各チームの旗が掲げられていた。


 その中には、聞き覚えのある名前も見える。


【スカイ】「キリキリバッタ……あいつら星2のタイラントワームに行くのか」


 スカイが呟くと、ココアがすぐに反応した。


【ココア】「そうそう。あの人たち、ランキング常連だからね」

【そる】「ダークキングは?」

【スカイ】「星3、インフェルノ・バハムートだって」

【そる】「え、バハムート!? 燃えドラゴンじゃん!無理ゲー!」

【ココア】「まぁあそこは超上位勢だし。私たちは私たちのペースでいこう!」


 モニターの右上には、開始時刻までのカウントダウンが表示されている。


 残り3分。


ギルドロビーには、ざわめきが満ちていた。

 装備の最終チェックをする者、緊張を紛らわせるように冗談を言う者、そして無言で画面を見つめる者。

 スカイもまた、深呼吸をひとつして手の汗をぬぐう。


【ココア】「あとちょっとだね!」

【そる】「初レイド、ドキドキするわ〜」

【スカイ】「楽しもうぜ。無理せず、まずは慣れるのが目標だ」


 そう言いながら視線を巡らせたとき、ロビーの片隅で異様な存在が目に入った。


 ――ひとりだけ、静かに立つ影。


 他のギルドと距離を置くように、壁際で待機しているプレイヤー。

 漆黒の鎧に身を包み、手には禍々しい紋様の刻まれた巨大な戦鎚を握っている。

 その姿には見覚えがあった。


「……オニッシュ?」


 思わずスカイはつぶやいた。

 かつて、まだ右も左もわからなかった頃、絶体絶命のピンチだった自分を助けてくれたプレイヤー。

 その名が、オニッシュ。


 ギルドタグのない名前の横に、小さく「ソロ」と表示されている。

 どうやら今も、どのギルドにも所属していないようだ。


 彼はロビーの喧騒とは無縁のように、ただひとり、静かに転送ゲートを見つめていた。

 戦う覚悟を宿した瞳に、どこか寂しげな色があった。


【ココア】「スカイ? どうしたの?」

【スカイ】「……ちょっと待って」


 スカイは思わず駆け寄り、声をかけた。


【スカイ】「オニッシュさん!」


 漆黒の兜がゆっくりとこちらを向く。

 少し間をおいて、控えめな声が返ってきた。


【オニッシュ】「君は……スカイくん?」

【スカイ】「久しぶりですね!」

【オニッシュ】「うん……レイドに行くの?」

【スカイ】「はい。キングゴブリンに挑戦します!」


 オニッシュは少し驚いたように目を瞬かせ、それから視線を落とした。


【オニッシュ】「そう……僕も、それを倒そうと思ってたんだ」


 スカイは即座に言葉を返した。


【スカイ】「一緒に行きませんか!?」


 オニッシュはその言葉に少し驚く。

 騒がしいロビーの中、その一瞬だけ、周囲の音が遠のく。彼の黒い鎧が、光を反射してかすかに輝いていた。


 残り時間あと1分。

 ゲートの光が、ゆっくりと強くなっていく。


ーーー 第一章 スカイの物語 完 ーーー

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