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オンラインゲーム:サンドボックスウォーズ ―画面の向こうの絆―  作者: 黒瀬雷牙
第四章 マルメンの物語

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78/90

第十九話 疑念

 日曜日。

 この日は、ログインしているメンバーがやけに多かった。


 キリキリバッタの拠点は、いつも以上に喧噪と笑い声が飛び交っている。


【ルミナ】「昨日のDK(ダークキング)戦、マジで無理だったんだけど」

【金糸雀】「最後のオニッシュさんと椿さんの戦いは怖かったです…」

【クルス】「あいつらがおじサムライさんやめさせなけりゃ今頃…」

【シャイン】「おじサムライさんの事はもう触れないで、色々あったんだから…」

【マルメン】「シャインのリアルの上司だもんな」


 チャットは、昨日の《ダークキング》戦の愚痴大会と化していた。


 マルメンは椅子に深く座り、仲間の声に耳を傾ける。


 キリキリバッタは元々賑やかだったが、今日は特に空気が騒がしい。ダークキング戦の翌日だからだ。


【たっちゃんパパ】「鬼朱雀とシンの野郎、執拗に俺ら狙いやがって」

【琉韻love】「裏切り者は処す的な?マジクソ鼻くそ」


 その二人は、元ダークキング。

 ギルド内部の揉め事に嫌気が差し、ついにキリキリバッタへ移ってきたのだ。


 しかしチャットは、早くも火花が散っている。


【シャイン】「パパ、琉韻。ここでは内輪の話、持ち込まないで」


 シャインが淡々と諫めると、チャットが一瞬だけ止まった。だが、次の瞬間、さらに二人のログが流れる。


【ノイス】「おはようさん、お揃いだなみんな」

【リオン】「てかペインよ。あいつ、どの面下げてダークキングいってんの?」


 ノイスとリオン。彼らは 元エターナル。


 特にダークキングに所属する、元エターナルギルマス・ペインと深い因縁を持つ。


【リオン】「あいつはいつも自分の見栄のためだけに動く。仲間なんてどうでもいいんだよ」

【たっちゃんパパ】「同じこと、俺らも思ってた」


 サーバー内の強豪ギルド《ダークキング》の中心には、常に支配と依存が渦巻いている。


 そしてその被害者たちが、ひとり、またひとりと、キリキリバッタに集まってくる。


(……バッタは、避難所みたいになってるな)


 マルメンはそう思った。


 誰かに追われ、傷つき、居場所を失ったプレイヤーが流れ着く場所。

 そこに温度があり、笑いがあり、くだらない雑談があって、ゲームの世界に、確かに“居場所”が存在する。


「オニッシュにもこういう空気、見せたかったよな」


 ――夜九時。


 星5レイド:セラフィム


 巨大な翼を広げる天使型ボスが、光の矢を降らせる。


【金糸雀】「範囲、広い広い広い! ヒール追いつかないって!」

【クルス】「タゲ固定できねぇ! 火力組、落とすぞ!」

【ルミナ】「うわ、雑魚湧いた!」

【シャイン】「落ち着いて! 金糸雀はバフ、パパさん薙ぎ払って!」


 拠点での喧騒とは打って変わり、戦場には緊迫した空気が漂っていた。


 今日は、オニッシュがいない。


【琉韻love】「燃やすわ!」

【シャイン】「焦らない、隊列崩さないで!」


 Rainが前に出て、水の結界を展開する。光の矢が跳ね返り、一瞬だけ視界が開ける。


【シャイン】「クルス、前行きすぎ! 死ぬよ!」


 光の柱がクルスをかすめ、HPバーが一気に赤くなった。


【クルス】「っぶね!」


 誰かが倒れれば全体攻撃が来る。

 ひとつのミスが全滅に直結する。


 オニッシュがいれば、火力で強引に押し切る場面だ。だが今日はそれができない。


(オニッシュ……インしてんのに、どこ行ってんだよ)


 マルメンの胸に焦りが募る。


【リオン】「いいか、あと20%! 全員集中しろ!」

【ノイス】「落ちたら蘇生優先! 火力は止まるな!」


 残り5%。


 全員のHPが赤く染まっていく。


【たっちゃんパパ】「ラスト任せろ!!」


 たっちゃんパパが大剣を振り下ろし、セラフィムの頭に叩き込む。


 光の翼が砕け、セラフィムが崩れ落ちた。


【システム】《セラフィム 討伐成功!》


 画面が報酬ウィンドウに切り替わると、ギルドチャットは一気に沸き立った。


【ルミナ】「っしゃあああああ!」

【金糸雀】「勝った……! やりましたよね!?」

【ノイス】「……マジでキツかった。オニッシュいないと、こんな違うのか」


 金糸雀がぽつりと言う。


【金糸雀】「オニッシュさん不在でヒヤヒヤでしたね……」


 その瞬間、琉韻loveが呟いた。


【琉韻love】「あいつ、インしてんのに。協力せずに、一人で奈落行ってるからな」


 チャットが一瞬、凍りついた。


【シャイン】「……奈落?」

【クルス】「なんで今、奈落?」


 誰も答えられなかった。


 ただ、胸に不安だけが残った。


 オニッシュは今日、ここにいなかった。


 笑いのある場所で、仲間と並んで戦う代わりに、

 誰も寄りつかない深淵へと、ひとりで降りていった。


 疑問を声にする仲間達の中、マルメンだけは別のことが気掛かりだった。


(インしてるのはメンバーでも確認できる……だが、なぜ居場所まで分かるんだ?)


 マルメンの中の、琉韻loveに対する疑念は膨らんでいく……

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