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オンラインゲーム:サンドボックスウォーズ ―画面の向こうの絆―  作者: 黒瀬雷牙
第三章 椿の物語

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第十七話 なんで?

 夜九時、星6レイド


 今週は《ガネーシャ》戦。


 巨大な石像が、大地を踏み砕くたび、HPバーが削れていく。


【Rain】「ヒール回らないッ! 範囲攻撃広すぎるって!」

【ペイン】「耐久がおかしい! ダメージ、全然通らねぇ!」


 ガネーシャが腕を掲げた瞬間、画面が真白に染まった。


【黒王】「全員、距離を」


 轟音とともに、ダークキングのHPバーが消えた。


【システム】《全滅判定:ギルド拠点へ帰還します》


 戦闘時間:2分12秒。


【Rain】「はぁ……っ、また、負けた……」

【鬼朱雀】「星6の壁って、こんな分厚いのかよ……」


 重く沈む空気の中、椿が口を開く。


【椿】「私は……ここに残る。まだ終わってない」


 迷いのない声だった。

 Rainは、静かに椿を見る。


【Rain】「……フローライトに行くんじゃないの?」

【椿】「奈落の最奥まで行くって決めた。まだ、やれることがある」


 Rainはほんの、一瞬だけ黙り込んだ。


【Rain】「……そっか」


 笑わなかった。

 次の言葉は、想像していたものではなかった。


【Rain】「じゃあ、お別れだね」

【椿】「え?」

【Rain】「私は行くよ。フローライトへ。あっちは、待ってくれてるから」


 黒王は止めない。聞いていたからだ。


【黒王】「Rain、達者でな。またいつでも来い」

【Rain】「うん。ありがと」


 Rainは淡々と、ギルドメニューを開く。


【Rain】「じゃあね、みんな。またどこかで」

【システム】《Rainが脱退しました》


 その文字が画面に浮かんだ瞬間、


 時間が止まった。


 椿の手が震える。


 Rainは椿の選択に、ついてこなかった。


 椿は、画面を見つめたまま動けない。


 ……ありえない。


 ずっと一緒だと思っていた。


 いつも横にいた。


 離れるわけがないと思っていた。


 そんなはず、ない。


「なんで……?」


 呟きは、すぐに苛烈な感情に変わった。


 椿……いや、紗月の指が震える。


「なんで?」


 胸が焼けるように痛い。


「なんで、行くの……?」


 Rainのアイコンが、メンバー一覧から消える。


「なんで……なんで……」


 視界が滲んだ。


「なんでっ……!」


 紗月は画面の向こうに向かって、何度も、何度も。


「なんで……?」


 止まらない。


「なんで……なんで……なんで……?」


 モニターに映るのは、空っぽになったギルドリストただひとつ。


「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」


 椿が残ったダークキングと、Rainが向かったフローライト。


 二人の道は、分かれた。


 その後、レイド結果一覧が更新された。


 星5クリア:王国騎士団・斬々抜断

 星4クリア:フローライト・サンドウォール・ブルーアーチ

 星3クリア:焼肉キングダム・ウィンドクローバー・ブラッドハウンド


【鬼朱雀】「は? 星6に挑戦すらしないで星5クリアでドヤってんのかよ」

【ペイン】「怖くてレベル落としただけだろ、雑魚の勇気振り絞りましたってか?」

【シン】「挑戦しなかった勝者は……勝者じゃねぇだろ」


 チャットには他ギルドの書き込みも流れる。


【ジェイ】「星6なんて無理ゲーだろw」

【マルメン】「賢明な判断ってやつ」

【シャイン】「ダークキングのバカ共、草」


【鬼朱雀】「ほら見ろ、賢明な判断だってさ。逃げただけだろ」

【ペイン】「挑戦しないで勝った気でいるやつが一番嫌いだ」


 黒王は肩をすくめた。


【黒王】「ふっ。挑戦しない者に、語る資格はない」


 その言葉に、メンバー達はいつものように笑った。


【シン】「まぁ、来週またぶっこんでやればいいだけだよな」

【鬼朱雀】「そうそう! 俺らなら星6やれるって!」


 和気藹々と盛り上がるチャットログ。


 ――ただ一人を除いて。


 椿は画面を見つめたまま、動かなかった。


 笑っていない。

 声も出さない。

 ただ、固まっていた。


【黒王】「……椿? どうした。黙ってるぞ」

【椿】「……裏切った」

【ペイン】「は? 何の話だ?」

【椿】「裏切った……裏切った……裏切った裏切った裏切った裏切った裏切った」


 聞く者の背筋が凍るほどの、低く湿った声。


【シン】「椿、おまえ……」

【黒王】「落ち着け。誰が」

【椿】「R──裏切った……Rainが裏切った……!」


 椿の指先が震え、マイクに触れる。


【椿】「一緒に奈落に行くはずだったのになのにフローライトに行った」


 感情が崩壊し、椿は画面に向かって叫ぶ。


「裏切った裏切った裏切った裏切った裏切った裏切った裏切った裏切った裏切った裏切った裏切った裏切った裏切った裏切った裏切った裏切った裏切った裏切った裏切った裏切ったあああああああああ――!」


 チャット欄が、止まった。

 その異様な空気を、カノンが長い溜息で切った。


【カノン】「……やれやれ。どうしてこのギルドは、問題児ばかりなのやら」


 画面の向こうで、椿の狂気だけが燃え続けていた。


ーーー 第三章 椿の物語 完 ーーー

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