第十六話 奈落探索
日曜日、午前八時三十分。
ダークキングのアジトに、いつもの面々が揃っていた。
【黒王】「全員、準備は整っているな?」
【ペイン】「問題なし。武器の耐久、強化値もMAXだ」
【Rain】「支援魔法のバフは全部セット済み。回復薬は通常の五倍量ね」
【カノン】「情報によると、4サーバーの最強ギルド《ラグナロク》でも第六層止まりらしい。私達は、どこまでいけるだろうな」
ダンジョン名:奈落
アップデートにより追加された、サーバー最難関の超高難度ダンジョン。
クリア報酬は、誰も見たことがない神話級装備。
だが、これまで挑んだギルドは、すべて壊滅している。
【椿】「今回は本気で挑むのね?」
【黒王】「ああ。この奈落の最奥に“真の支配者”がいるらしい。面白いじゃないか」
【鬼朱雀】「へっ、燃えるな。裏切り者もいねぇ、純粋な戦いってやつだ」
【シン】「朱雀さん、昨日燃やした人の話はやめましょう……縁起でもない」
軽口が飛ぶ中、椿だけが静かに目を閉じていた。
「僕はただ戦うだけだ」
昨夜のオニッシュの言葉。
その狂気に、ほんの少しだけ共鳴してしまう自分がいる。
だが今は前を向く。
【黒王】「椿。お前が先頭だ。奈落の入口を開け」
【椿】「御意」
椿が刀を抜き、地面に突き立てる。
魔法陣が広がり、黒い靄が床を覆った。
転送光が全員を飲み込む。
第一層《古代遺跡》
重苦しい空気。視界を覆う深紅の霧。
道を塞ぐのは、数えきれない亡者。
【ペイン】「雑魚は任せろ」
双剣が閃き、十数体が霧散する。
続けてRainが詠唱。
【Rain】「アクア・シールド、全員展開!」
天井から降り注ぐ毒液を弾く。
黒王が手を掲げる。
【黒王】「ヴォイド・ディストーション」
空間が歪み、亡者ごと世界が裏返った。
【鬼朱雀】「一層目でこれって冷酷すぎだろ」
【黒王】「容赦など不要。これは試練ではない。淘汰だ」
一行が順調に進むと、一層最奥にてボスモンスターが現れた。
第一層ボス:懸念の蜘蛛・シャスエティ
あらゆる状態異常で翻弄してくれる、嫌なタイプのボスである。しかしーー
【カノン】「雑魚が」
斬撃一閃。カノンの一撃に蜘蛛は抵抗すらできず霧散した。
【鬼朱雀】「なぁ知ってるか?カノンさんは、全サーバーで10位なんだぜ」
【シン】「ここ32サーバーなのに……?」
【鬼朱雀】「おうとも。9位のアブソルとは毎週入れ替わってんだ」
【シン】「次元違いすぎて理解が追いつかねぇよ」
第二層《果ての砂漠》
出現するモンスターは、一層とは段違いに強くなる。しかしダークキングの面々ならばなんてことはない。
第二層ボス:嫉妬の獣姫・ジェラシア
【Rain】「HPバー五重!? 耐久おかしいって!」
【カノン】「回避不能の範囲攻撃、全員距離を!」
【黒王】「朱雀、燃やせ」
【鬼朱雀】「任せろッ! 紅蓮・鳳焔陣ッ!」
炎が獣を焼き、ペインが突撃。
【ペイン】「沈めぇえッ!」
最後に黒王の闇が覆う。
【黒王】「奈落よ、喰らえ、デス・アブソリュート」
ジェラシア崩壊。
【カノン】「私の出番はなかったな」
第三層《黒薔薇の迷宮》
開かれた門の先は、宇宙の裏側のようだった。
【Rain】「魔力が……吸われていく……?」
【椿】「スキルの発動が遅延してる。この空間、狂ってる……!」
【ペイン】「バフもデバフも無効かよ……全裸で戦えってか」
黒王が前に出る。
第三層ボス:怨恨の黒薔薇・グラージャ
【椿】「……あれが、この層のボス?」
【シン】「こいつ、存在がゲームじゃねぇ!」
その瞬間、世界が爆ぜた。
光。轟音。
気づけばカノンと黒王を除く全員のHPバーは消失していた。
【ペイン】「は……? 今、何が……」
【鬼朱雀】「攻撃判定も見えなかったぞ……!」
【黒王】「……全員、退」
言い終わる前に霧散。残るはカノン。
【カノン】「…ったく、いくら私でもソロじゃ無理だよ」
2、3発スキルダメージを与えた後、カノンも敗北。
【システム】《全滅判定:ギルド拠点へ帰還します》
戦闘時間:1分38秒
【Rain】「……1分38秒。あれだけ準備して、1分38秒?」
【シン】「いや、カノンさんと黒王さん以外は多分数秒だぞ…」
【カノン】「ふふ……私もまだまだね」
【鬼朱雀】「いやカノンさんでも無理とか笑えないだろ!」
黒王は黙っていた。
だが、ゆっくりと笑った。
【黒王】「いい。面白いじゃないか」
【ペイン】「は?」
【黒王】「俺たちが本気で挑める相手が、まだいるってことだ。」
【鬼朱雀】「俺、黒王さんのそういうところ大好き!」
アジトの空気が熱を帯びる。
これは敗北ではない。挑戦の始まりだ。




