表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オンラインゲーム:サンドボックスウォーズ ―画面の向こうの絆―  作者: 黒瀬雷牙
第三章 椿の物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/76

第十四話 夜叉

 水曜日の夜。

 個人ランク戦を終えた椿は、静かに《ギルド拠点》の扉を開いた。


 彼女は、まるで昨日とは別人のようだった。

 ちょうどその時、もう一人の影が現れる。


【カノン】「速いな」

【椿】「えぇ、やっと一勝できた」


 その装備を見て、何かを察した。

 彼女の背中から漂う何かを捨てたような気配を。


 ほどなくして、拠点の扉が再び開く。

 重い足音とともに、黒王が帰還。

 その後ろには、ペインと鬼朱雀の姿もあった。


 闘技場帰りの熱気と緊張が、ギルドの空気をわずかに震わせる。


【黒王】「……勝ったようだな、椿」


 低く響く声。

 椿は無言でうなずく。


【黒王】「だが、無茶をしたようだな」


 その一言に、場の空気が一瞬張りつめた。

 黒王の視線は、椿の新しい刀に注がれている。

 ただの装備ではない。


 武器:天十握剣(あまのとつかのつるぎ)+3

 盾:なし

 頭:夜叉のかしら+2

 胴:夜叉の斗衣とい+2

 腕:夜叉のかいな+3

 足:夜叉の修羅脚しゅらきゃく+2

 靴:夜叉の妖履ようり

 装飾:鬼神の勾玉+3

 ※統一効果:攻撃力15%上昇


 重課金者だけが手にできる、特別な光。


【椿】「勝ちたかっただけです」


 静かな返答。

 その裏にある焦燥を、黒王は察していた。


 やがて、外の扉がふたたび開く。Rainが帰還した。

 その後ろには、シンの姿も見える。


【Rain】「あれ、もうみんな戻ってたのね」

【鬼朱雀】「椿さん、その装備」

【シン】「うわ、マジか。夜叉シリーズ、フルセットかよ!」


 驚きと称賛の声が次々と上がる。

 椿は少しだけ視線を伏せ、照れくさそうに微笑んだ。


【シン】「しかも、椿さん……ランキング、めちゃ上がってましたよ」


 拠点が一瞬、ざわめきに包まれる。

 だが椿は、喜びの表情を見せなかった。


【椿】「ただ、勝ちたかっただけです」


 木曜日。

 個人ランク戦、開始三分。

 椿は刀を抜く間もなく敵を斬り伏せた。


【システム】《勝利!》


【シン】「うわ……マジかよ、椿さん、開幕で一撃!?」

【鬼朱雀】「速すぎる……いや、もう別次元だな」


 夜叉装備の効果と、重課金強化による圧倒的な火力。

 前日までの苦戦が嘘のように、敵は次々と光に変わっていった。


 金曜日。

 再び個人ランク戦。

 マッチングされた相手は、他サーバーのランキング上位の盾職。

 防御特化で知られる強敵だった。


 しかし、結果は瞬殺。


【ペイン】「それでいい、強さこそ全て」

【カノン】「ようそこ、こちら側へ」


 椿は画面の向こうで、静かに息を整えた。


【椿】「ただ、勝ちたかっただけです」


 ギルドの拠点。メンバー全員が集まる中、黒王がゆっくりと立ち上がる。


【黒王】「明日、土曜日のギルド戦。お前たちの力を見せてもらう」


 低く響く声が広間を満たす。


【黒王】「椿。お前には、前衛を任せる。オニッシュを倒して見せろ」


 一瞬、拠点が静まり返る。


【椿】「必ず、勝ちます」


 彼女の瞳には、炎のような光が宿っていた。

 勝利への執念か、それともRainの隣に立つための誓いか。


【黒王】「いい返事だ。……狂気を孕んだもの同士、いい戦いになるだろう」

【カノン】「狂気?」

【黒王】「そのうちわかるさ…では」


 ログアウト音が順に響く中、椿はひとり画面を見つめた。


【椿】「……明日、絶対に負けられない」


 夜叉の刀が、静寂の中で鈍く光を返す。

 それは、勝利の刃か、それとも焦燥の象徴か。

 椿自身にも、もう分からなかった。


 翌日。土曜日、午前七時三十分。

 画面の中央、ダークキングの面々が勢揃いしていた。


 中央金エリア、布告成功。

 黒王はゆっくりと腕を組む。


【黒王】「これで主導権はこちらのものだ」


 地図上では、王国騎士団がダークキングの持つ銀区画に布告をしている。それを見た黒王は、ただ一言。


【黒王】「あそこは放棄だ。狙うはキリキリバッタのみ」

【ペイン】「確実に金を取るか」

【鬼朱雀】「いずれにせよ、金を取れば王国騎士団とは当たる」

【カノン】「今回は前座ね。バッタ如き、オニッシュ1人いたところで変わらない」


 椿は黙って画面を見つめていた。

 中央金大区画…最高報酬を孕む、頂点の戦場。

 その布告者に、自分たちの名が刻まれている。


 心臓が早鐘を打つ。

 あの日、負け続けた自分はもういない。

 今度は、勝ちに行く。


 そして、午後九時。


 空が割れるような轟音とともに、戦闘開始の合図が響く。


【システム】《ギルド戦、開戦!》


 夜の戦場に、魔法の光と剣閃が交錯する。

 黒王が前線に立ち、背後で椿が刀を抜く。


 その刃先が、月光を浴びてきらめいた。

 誰もが息を呑む瞬間。


【黒王】「全軍、突撃!」


 声が飛んだ瞬間、画面全体が白く閃いた。

 戦いが、始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ