第六話 初のギルドバトル観戦!
大地のPCの画面には、白熱のギルドバトルが映し出されていた。街区を囲む塔や建物の間で、キャラクターたちが縦横無尽に動き回る。
「よし、次は左翼を抑えろ。後衛は回復優先で!」
大地は通話アプリを使い、リアルタイムで指示を飛ばす。
「全員、主を狙うタイミングは俺が指示する!」
瞬く間に侵略は成功し、左翼の防衛陣地が崩れた。
「すげっ!え、大地ギルドマスターなの!?」
空也は思わず声を上げる。
「俺は指揮役の1人だ。このゲームはただ強い人が集まるだけじゃ勝てないんだぜ」
大地は得意げに答える。確かに戦術の組み立てや指示は的確だが、それでもダークキングの勢いは止められない。
空也が自分のスマホ画面を見ると、そこにはココアのログインがあった。
【ココア】「スカイくんこんばんは!」
【ココア】「あれ?いない?まぁいいや、多分誰も攻めてこないから観戦しよー」
空也はすぐ返信した。
【スカイ】「ココアさんこんばんは!友達のサーバーの試合みてました、どんなかんじですか?」
【ココア】「こんばんは(^^) 南西銅大区画見てみて!ダークキングの侵略と斬々抜断の防衛!」
大地も空也のスマホの画面を覗き込み、状況を確認する。
ギルドメンバーはMAX30人。
ダークキングは総勢26人。主は動けないため、実戦可能な戦力は17人。
侵略側は8人、対する斬々抜断は事前配置を含めて総勢20人で防衛していた。
しかし、大地は画面を見て息を呑む。
「やばっ、全員ログインしてんのかよ。事前配置ゼロとか本気モードじゃん!」
バトルが始まると、キリキリバッタの指揮役シャインは必死に防衛線を維持する。
事前配置のキャラクターたちは、ダークキングの猛攻の前に次々と瞬殺されていく。だが、シャインは冷静に状況を判断し、残ったメンバーに援護指示を出した。
その指示を受け、キリキリバッタの最終兵器・おじサムライが前線に立つ。
屈強な体躯に鎧を纏い、刀を構えた姿は威圧感に満ちていた。ダークキングの侵略者たちが次々と攻め寄せる中、サムライは一撃一撃で迎撃する。
シャインの声に合わせ、メンバーたちが魔法や遠距離攻撃でサムライを支援する。
その連携が完璧に噛み合い、おじサムライは圧倒的な戦力差にもひるまず、たった一人でダークキングの4人を斬り伏せた。
「すごい……!」
空也のスマホ画面に映る戦場で、その圧倒的な存在感に息を呑む。まさに鬼神の如き戦いぶりだった。
しかし、戦いの代償は大きかった。
連戦で蓄積した疲労とダメージにより、サムライの体力は限界に達する。そこにダークキングの最強戦力・カノンが現れた。
【カノン】「さよなら最強さん」
光る鎧と凶悪な剣技を持つカノンの前では、サムライも為す術なく倒れ、戦場はあっという間に制圧されてしまう。
【シャイン】「ここまでか、ありがとうございました」
シャインの指示も、援護も、ここまでだった。キリキリバッタの防衛は全て崩れ去り、残るメンバーも次々と撃破される。キリキリバッタは完膚なきまでに敗北し、32サーバーの大区画は全てダークキングの手に落た。
空也は画面を見つめ、ただ息を飲む。
「……マジか、全滅……」
ダークキングの異常な強さが際立ち、キリキリバッタの奮闘も報われなかった。
それでも、あのサムライの孤高の活躍だけは、静かに心に刻まれた。
戦いが終わると、空也の画面にはココアのメッセージが届いた。
【ココア】「さすがサーバー最強のおじサムライ……!シャインさんの指揮も素晴らしかったね!」
空也はスマホをスクロールすると、サーバーチャットはお疲れ様でした!や、おじサムライかっこよかったぞ!と称賛の嵐になっていた。
しかし、ダークキングに向けて称賛を送る者は一人もいない。圧倒的な力で勝利したはずのギルドに、敬意の言葉は誰も向けなかったのだ。
空也はスマホを眺めながら、ふと考え込む。
「……勝った方は、称賛されないのか?」
横で大地が画面を見ながら肩をすくめる。
「そりゃ、そこまで一強だと嫌われるってもんだろ。どんなサーバーでも、突出しすぎると敵も味方も文句言うもんさ」
空也は眉をひそめる。
「でもさ、あのおじサムライ……ランキング1位なのに、ダークキングに入るどころか戦ってるんだから、普通に英雄だよな」
キリキリバッタは、おじサムライ以外のメンバーはあまり強くない。シャインを含む三名ほどがベスト50以内だが、あとは無課金・微課金のギルドだ。
大地は得意げに笑った。
「そうそう。強さだけじゃなく、立ち位置や選択も大事って俺は思う」
空也は頷きながら、戦略や人間関係の難しさを改めて実感した。
【スカイ】「俺たちも、あんな風に戦う日、来るんすかね…!?」
すぐにココアから返信が来る。
【ココア】「スカイくんも、いつかあんな戦いできるようになるよ!」
空也は胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
仲間がいる…それだけで、少しだけ自分も強くなれそうな気がした。




